12/21の日記

16:43
忍たま小噺※パロ
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タソガレドキとの長い長い打ち合わせの後、ようやく解放されたと肩の力を抜いて遅めの昼ご飯は何処にしようかと考えながら街道を歩いている時だった。ちらりと視界の隅に移った人影に何処か見覚えがあったので思わず目を向けると、数人の海外旅行者に囲まれる様にして説明している様が入って来る。だが彼はこの近辺は其処まで詳しくなかったよなと、変な野次馬根性を押し出してしまった。
「いやぁ助かったよ」
へらりと人のいい笑みを浮かべて土井さんが礼を言うのだがそう大したことはやっていない。ただ単に道を教えただけだ。
「仕事中かい?」
「いーえ、今から遅めのお昼予定です」
「じゃあさっきのお礼も兼ねでどうかな?一緒に」
「…突然ですね、給料日でもきたんですか?」
冗談めかして言えばそんなもんだよと笑みを浮かべて返される。山田所属長にいきなり紹介された時はどうしたものかと二人して考えたのは半年ほど前の事だ。
「生徒からいい店を教えてもらってね、秋って丁度おいしいものが多いじゃないか」
「そうですね、じゃあ今日はそこにしようかな」
部署には夕方に戻ると外出時に伝えてある。多少のんびりしたって罰は当たらないだろうと年上の准教授を見遣って歩き出した。見事な秋晴れは何処までも澄み渡っているような錯覚さえ覚えて。【秋は澄んだ空見上げ】

「土井さん土井さん、今大丈夫ですか?」
寝ぼけ眼に鳴り響いている携帯を取ればメールではなく通話だった。誰だっけと半ば寝ている頭をフル稼働させても結果に至る前に眠気に邪魔をされる。
「論文の締め切りが間近だってのは知ってますから、寝てたんでしょう?」
摂津ですよ、と告げてくれたのでようやく相手がわかる。と同時に一気に覚醒した。
「すまない…」
「別に構いませんよ、私だった納期前はそんな感じですから」
からからと笑う声が電話越しに伝わってくる。恩師でもある山田先生(今は企業勤めで所属長とかいう肩書だけども)の突然の呼び出しの後に彼女を紹介されたのだった。何でまた、と後日尋ねてみれば「ぴったりだと思ってな」と奥方の折り紙付きで互いに紹介されたらしい。さっぱりとした性格の彼女は特に飾るわけでもなく素直というか率直というか…そんな雰囲気で肩ひじを張らずにいけるので随分と楽だ。
「ところで、どうしたんだ?」
「いえ、近くまで来たのでちょっと顔でも見てみようかと思ったんですけども」
「も?」
「雨に降られまして」
「い、今どこだ!?」
がばりと布団から勢いよく跳ね起きてカーテンを開けば冬の曇天から音もなく雨が降り続いている(水溜りまで出来ているという事は相当降ってるのか)電話向こうから聞こえてくる場所はなるほど己の借りているアパートから程近い。今すぐ来るよう伝えて電話を切り…少し慌てて部屋を片付ける(其処まで散らかってはいないけれど)
「すみません、お風呂まで借りて…」
「風邪をひかれるよりましだよ」
家に着くなり風呂へ押し込んで血色の良くなった顔を見て安心する。雨に降られたという想像を超えてのずぶ濡れ状態だったとは…今度からちゃんと確認しないといけないな。冬の雨に体を冷やして風邪をひきました・なんて心配過ぎる。
「どうしてまたあんな濡れ方を、」
「丁度屋根もない場所で降りだされまして」
「よく家を思い出しだな」
「そうですね、ただ何となく土井さんの顔が浮かんだんですよ」
裏の無いまっすぐな感情を向けられて歳甲斐もなく顔へ熱が集まるのを感じた。【冬の雨濡れる】

「おうつばくら、半助とはどうだ?」
「山田所属長、いきなりなんですか」
出社開口一番がそれってどうなんですかしかもニコニコと凄絶な笑顔で(そのうち女装とかしそうな勢いですけど)立て込んだ仕事も先週で解放されてのんびりとしようと思った矢先に中途採用というか転職してきた一人が配属されたのだ。そんな彼、斎藤タカ丸は兵助に一任して(ちゃんとサポートはしてる)己は長期プロジェクトの工程見直しに何故か付き合わされている。うちが請け負ってる分だけでいいと思うんだ、なんて兵助やタカ丸へ呟きながらも漸く半分程見直しが出来た所で。
「そろそろ一年になるか、半助紹介して」
「そうですね…」
「つばくらちゃーんデートの時は教えてね〜セットするから〜」
独特の、間延びする声でタカ丸がそういうのでしてもらった事がある(プロ並みだった)それ以来友人の結婚式だの会社の集まりだのハレの日にはタカ丸に頼んでいるのだ(一挙に立て込んで懐も厳しいし)
「付き合いが続いているならそれでいい、わしも孫の顔が見たいわ」
「利吉さんがいるじゃないですか、」
「期待出来んからこうしてお前に期待しとるだ」
「いえいえいえ、期待どころが間違いですから」
そんなぶーぶー言っても変わりません、とデスクへ向かえば放置していた携帯がメールを受信していた。こんな時間に迷惑メールかーなんて考えながら開けば先程渦中の人だった土井半助から。今夜ご飯でもどう?なんてお誘いがこんな朝から来るなんてなぁとぼんやりしていたら後ろに気配がして思わず振り向いた。
「おう、行って来い」
山田所属長がにんまりと笑みを浮かべるものだから誤魔化しようが無い。穏やかな、例えば今日みたいな小春日和な日々は一体いつ訪れるんだ早く来い・と切望しながら、こちらこそと返信のためにキーを叩いた。【春の陽に手をのばし】

「先生も夏祭り行きましょう」
と授業を受けている生徒らに誘われたのは先々週。そういえばそんな時期かとカレンダーを見遣って暫く彼女に会っていないのを思い出した。携帯電話というのは随分便利なもんだなと痛感しつつ、生徒らの誘いを受けたんだったと記憶を掘り下げるほど実験に明け暮れていた期間も同時に出てきた。
「六時に神社の鳥居のところで」
「送れないでくださいよ!」
黒木と二郭に念を押されてしまえば今更不参加でなんて言いようもない。一人暮らしが主な大学生らが、夏祭りを見逃すはずもないかと昼下がりに別れて集合時間三十分前に電話がかかってきた。
『せんせーちゃんと来てくださいよー?』
「猪名寺、そこまで私は信用ないか?」
『そんなことないですよ、確認です確認』
十一人が連れだって夏祭りなんてむさっ苦しくないか?と今更ながら思う(己も加わるから十二人か)最低限の荷物を持って大学を後にし、集合場所へと向かう。早めに来ていたらしい黒木と二郭をはじめ、半数程が既に来ていた。
「早いな、」
「先生が迷ってもいけませんしね」
そんな話をしていれば残る面々がやって来たようで…予想外の光景に思わず言葉を失った。
「なんでー庄左ヱ門らもう来てたのか?」
「まぁね、そっちの人は?」
「俺の姉ちゃん」
と摂津の横に立っているのは紛れもなく彼女で(しかも摂津と揃って浴衣姿)ぽかんとしていれば彼女が此方に気付いたのか見る見る顔が朱に染まる。
「ど、土井、さ…!何で!?」
「いやそれは此方の……摂津の姉なのか?」
「私、摂津つばくらですよ?」
「……あ、」
「え?姉ちゃんと土井先生って知り合いだったの?」
「えーまぁ…そんな、感じ」
語尾を濁せば何処か落胆したような雰囲気が一堂に流れる。おいおい、一体なんだその空気は。
「先生、いい年して独身なんだからさー姉ちゃん紹介しようかと思って連れて来たんだよ」
仕事も一段落したって言ってたし、と摂津が続ける。この面々は何度か彼女に会った事があるらしく、きり丸が立案したものを黒木らが企画して一同が実行したらしい。山田先生に似たようなものを感じてならないが。
「付き合ってるとかじゃないのー?先生」
「あのなぁ」
「じゃあ、二人で楽しんできてよ!」
「そうそう、僕らは僕らで回りますんで!」
と彼らは早速境内に広がる屋台へと消えていく。取り残されたように二人で立ちすくんでいるのもなんだ、と彼女の手を取った。
「変わりないか?」
「はい、まぁ一応」
「ところで、」
「何ですか?」
「これは弟公認と取っていいのか?」
彼女の弟である摂津がそう言い出したのなら公認になるのだろうか・と考えているのだがまだ出会って一年程しか経っていない事に気付く。
「なぁつばくら」
「なんですか、土井さん」
「付き合ってたっけ?」
「……どうでしたっけ?」
根本的な所があやふやだった気がするので確認してみれば向こうも同じだったようだ。まぁ折角生徒らがお膳立てしてくれたのだからしっかりと堪能するか。
「ならあれだ」
「うん?」
「結婚を前提にお付き合いしてください」
思わずさらりと口から出てしまったが言い終わってから相当勇気のいる事だったと急に熱が顔へ集まって来る。鳥居の下で何真っ赤になって佇んでんだと自分で叱咤しながら彼女の返事を待ちながらも握る手に力が入る。程なくして真っ赤に染まった顔を縦に頷いた彼女を、思わず掻き抱いた。【巡りくる夏の夜】


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忍たま社会人パロ。4〜6年生は同じ会社で委員会ごとに部署分け。会計→経理、作法→人事、用具・体育→営業、図書・火薬→システム開発、保健・生物→医療関連事業、学級委員長→秘書っていうような感じ。そんな会社の代表取締役は無論学園長ですとも。現実逃避でこうなった。1〜3年は大学生設定で。インターンとかでやって来ればいいともう。いろんな城は会社ということで。先生らは各部署の上司だったり学校の先生だったりがいいなぁという希望。
【】内は某海岸線という歌の一部。こういう季節交えた流れは小噺とか書きたくなるなぁという衝動の結果。

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