01/12の日記

14:31
戦ばさで小噺。
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夜が忍の時間だとは言い難い。行き交う存在を眺めながら、時折振られる手を振り返しいながら薄く広がる月明かりの空を見上げる(人以外の存在が見える目の事を見鬼というらしい)物心付いた頃からそれが当たり前だったので今更どうという事は無い。彼らを認知しないのは神々すら否定するような事だと、いつだったか死んだ叔父が言っていた。
「何を見ているんだ?」
「空。寝ないのか?源二郎」
「それはお前もだろう?」
濡れ縁で膝を抱えるようにしていた隣へ、彼が腰を下ろす。普段破廉恥だなんだと叫んでいる割に、己との距離感は思いの外近いし接し方も普通だ(以前その辺を筆頭に指摘されて気付いたのだけど)赤備えで戦場を駆ける彼は武田の家臣でもあり武将でもある。近々上杉との戦を控えているから鍛錬に力が籠っているのも目に見えて明らかだ。
「いつまで武田に留まれるんだ?」
「いつでも出ていけるよ」
一宿一飯の恩義を返していたいつきちゃんのいる最北は、奥州の筆頭が治めることになったので再び全国行脚を再開したのだ。ぶらりぶらりとしているところを佐助さんに会って、今は誘われるままに武田へ留まっている。従者達も各々武田へ忍びつつ紛れつつ過ごしているので出る時には彼らにも知らせなければならない。
「ずっと…は居ないのか?」
「家族探さないといけないし、あんまり長居しない事にしてるんだ」
「…そう、か」
十年程前に親族が夜襲をかけてそのまま生き別れた家族の息災が一向に掴めぬままなのだ。本州と四国は大凡廻ったから次は九州へ足を延ばしてみるのも一つの手かもしれない(母の生家が薩摩だったし)あの父と祖父が共に行動していれば何の情報も漏らしはしないと思うのだが…長い根競べになる前に生きているかどうかの情報ぐらい寄越してもいいと思う
。「死んでは無いと思うんだけど」
「あの親父殿がそう易々と死ぬとは俺も信じ難いな」
「うん、俺もそう思う」
ぼんやりと空を眺めれば先ほどよりも飛び交う者が増えていた。やっぱり夜は忍の時間っていうか彼らの時間の方がしっくり来る。
「何かいるのか?」
そう聞かれて思わず肩が跳ねた。
「…え、」
「昔言っていたじゃないか」
「何か言ったっけ?」
「妖がいると」
そういえば昔、彼と遊んだ頃には口にしたのかもしれない。あの頃はそれが当たり前で、誰でも見えていると思っていたから、まぁ今では見鬼自体が稀有なものだとわかってはいるから言わないけれど。
「…どうだろうね」
「はぐらかすのか?」
「戦前にそんなの言って吉凶みられても困るし」
「俺は其処まで気にしてはいないが」
「他の人がそうだろ?げん担ぎしてるじゃないか」
「で、いるのか?」
「人の話聞いてたか?」
何処か期待しているような、輝いているような目を向けられて思わず脱力した。気になったことは知らないと気が済まないタチなのは変わってないのか…。ちらりと彼の方を見遣れば小さな妖たちがわらわらと肩や頭に乗っかっている。降りなさい・と軽く手で払えばきゃーきゃーおもしろそうに転がり落ちていくのだ、余計気疲れする。
「どうした?何かいたのか?」
「あぁたくさん」
「なにっ!?何処だ?」
「転がってから向こうに走ってったからもういないよ、」
「む、そうか…」
本気で見たいと思うなら見せてやろうかと思うが、見えない状態に慣れ親しんでいる人に見せるとしても酷かもしれない。それでなくても己は見え過ぎると祖父に言い渡されているのだ。鳥が飛ぶように妖が空を行き交っているだなんて一体誰が信じるのだ…あ、源二郎は信じるか。
「…そろそろ寝るよ」
「寝るか?」
「うん、疲れた」
「部屋まで送ろう」
「大丈夫だよ、そんな離れてるわけじゃないんだから」
そう断わるもいつの間にやら隣に並んで歩いている(随分背が伸びたんだなと実感してしまう)伸ばせば届く距離でもある人一人分程も空いていない隙間も、触れそうな手も、全てがあやふやで曖昧なものだと考えていれば後ろから来た妖に足を掛けられて体勢を崩してしまった(油断大敵だってのに、くそ)
「…大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
盛大にすっ転ばなかったのは傍らに居る源二郎が咄嗟とはいえ支えてくれたお陰でもある。そんな軽々と支えられると何だか寂しさ募るけど、あぁ男なんだな・と、何だか少し寂しく思えた(結局男と女という最大の差異は埋めようがないのだとも)
「此処までで大丈夫だよ、ありがとう」
だけど一向に源二郎が動く気配は無い。
「…源二郎?」
「………」
顔に落ちた影で表情はわからないが、何かを思い出したような、漠然とした不安を感じているのはわかる。力無く握られた手が微かに揺らいでいるのがその証拠だ。
「戦が終わるまではいるよ」
「……」
「だからちゃんと帰ってきてよ?」
「……ん、わかった」
ようやく崩れた表情に少し安堵する。影は安易に妖を引き込みやすくなるから。
「源二郎」
「なんだ、」
「じゃあ約束」
簡単な呪。戦が終わって帰って来るまで待ってる。だけど帰ってきたら俺は武田を出ていく。そういうのを含めたやり取りを源二郎はきっと感覚でわかっているとは思う。
「おやすみ、源二郎」
「あぁ…おやすみ」
いつまでも浸るわけにはいかないのだと、静かに戸を閉めた。



真田と主人公は付きそうでつかない感じが安定してそう。近過ぎても遠過ぎてもな距離感を互いにもってそうな感じがしないでもない。真田の設定がドラマCD引き摺ってるせいで未だに昌幸パパ上と信之兄上は死別設定なんだぜ←
3の雰囲気が微妙にわかってきたんだけれど一揆衆が不在とは…しかたないので筆頭領地に以降って事にしてみたけれどもうーん。とりあえず主人公は従者と一緒に全国行脚してます。

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