俺たちは海賊だ。
だけど世間一般に言う、金品強奪とか喧嘩上等とかそういうんじゃなくて、気楽に海を旅して、訪れる数々の街でライブをするという、異色の海賊だ。
今日も、さっき着いた街で夜にライブをする。
だから楽器の調整のために、船内に設けられたスタジオに向かっているわけだ。
自分の楽器、ドラムの前に座ると気分が落ち着く。
スティックを取って、今日のセットリストを上から順番に演奏していく。
ドラムの音だけでは、何がなんだか分からないけど、もうそろそろみんな来るだろう。
多分、ダンチ辺りが来るはずだ。
そう思いながら叩いていると、防音扉が開いた。
入ってきたのは、予想を大きく外して
「やほ、エル兄」
ライアンだった。
手にマグカップを持って、スタジオの中を歩いてくる。
「どうした?」
「なにが?」
「いつもなら、スタジオなんて入ってこないのに」
楽器を引かないライアンは、スタジオ練習にはあまり参加しない。
入ってくるのは、何か用のあるときかダンスの練習があるときくらいだ。
「ちゃんえつにを水持ってきたの、さ☆」
「なに、その話し方!」
変な区切り方をするライアンにツッコミを入れれば、彼女はお腹を抱えて笑った。
マグカップに入った水がこぼれそうになっている。
「てか、水!
こぼれる…!!」
「あぁ、忘れてた。
はい、オッサンだから、ちゃんと水分取ってね」
手渡されたマグカップに口をつけ、冷たい水を喉へと流し込む。
あまりの冷たさに、一瞬胃が縮こまった。
「冷た…」
「キンキンに冷やしといたから☆」
星を飛ばしながら笑うライアンは、スタジオを出て行く気はないらしく、壁にもたれ座る。
俺は、休憩も兼ねて隣に座った。
マグカップを床に置いて、タバコを取り出し火をつける。
紫煙を灰の奥まで吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
それを何度か繰り返していると、ライアンが眉間にシワを寄せて俺を振り向いた。
「エル兄さあ…」
「なに?」
「禁煙、けほ、しないの?」
我慢してたのか煙にむせるライアン。
ちょっと涙目になってる様子が可愛いとか思うあたり、相当ヤバいぞ、俺。
「しないよ。
タバコ止めたら、俺死ぬ」
「じゃあ俺が肺ガンで死んでもい、「いいわけないだろ。」
何でもないことのように言うライアンの台詞を、くいぎみで遮る。
苛立ちのあまり、タバコの煙をライアンの方に吐いてしまった。
うっすらとした紫煙の向こうに、ぽかんとしたライアンが見えた。
「エル兄…」
「なんだよ」
「そんなに俺のこと好き?」
((はあ?))
((だって、くいぎみに否定したっしょ?
それって、やっぱり好きだ、((寝言は棺桶ん中で言え))
(([ライアンとは逆の方を向いて、煙を吐き出した。]))
((棺桶って、死んでんじゃんか!
もう、それ寝言じゃなくて遺言じゃねーか!
照れんなよ、ちゃんえつ☆))
((うっせー))
(([バレていた]))
(([そっぽを向いて隠したはずの赤い耳]))