創作

□HatRed
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でも、どんなに恵まれていても・・・私は母を知らない。

あの温もりを、知らない。


ねえ、何故私の髪はこんなに赤いのかしら?
何故私の目は・・・黒ではないの?


どうして、私の顔にはたくさんの痣があるの?


誰も答えない問いに、母なら的確な答えを出してくれる気がした。

会いたい。



母への思いは、いつしか変化を遂げた。
同性への、愛に。



「ふふ、巫女様は可憐でいらっしゃいますね」
柔らかく無雪が微笑んだ。
無雪は、神主の屋敷の使用人だ。
いつも一人で書物を読んだり、鋏で遊んだりしている私にいつも話し掛けてくる。
「可憐?可憐って、何?」
「巫女様のような方のことを言うのですよ。愛らしい、というのですかね」

優しく、温厚で美しい無雪に私は母の姿を見ていた。

母がもし生きていてくれたなら、こんなふうに私に笑いかけただろうか。

「無雪」
「はい?」
「・・・貴方の名前には、どうして無という字が入っているの?あまりいい意味ではないでしょう」
首を傾げ、無雪に問う。
無雪は、静かに目を伏せ、言った。
「巫女様もご存知のように、私の名は【なしゆき】と読みます。そのまま、雪が無いという意味です。雪が溶けた春・・・そんな温かい子になってほしいと両親がつけたのですよ」

ちくりと、胸が疼いた。
無雪の名には、意味がある。

じゃあ、私の名の意味は?

そもそも、誰が私に名づけたのだろう。
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