創作

□HatRed
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「そういえば、巫女様の名を存じませんね・・・。なんというのですか?」

無雪に悪意はない。
ただ、純粋に私の名を知りたいだけだ。


・・・でも。


「秘密、よ」
に、と冗談のように意地悪い笑みを浮かべた。
「もう!巫女様ってば。気になるではないですか!」

笑いあう。
幸せな時間。


ふと、無雪の冷たく白い指先が触れた。

熱い。

無雪の指先が熱いのではない。
指先が触れた場所が、燃えるように熱いのだ。


ああ。



美しい笑み。

愛している、愛している。




恋を、知った。



「巫女よ」

ある日、神主が珍しく屋敷に訪れた。

「はい」
「お前のもとに仕えていた、無雪という使用人がいるだろう」
「ええ。それが何か・・」
「めでたいことだ。無雪が腹に子を宿しておる。今度の春には生まれるであろう・・・」

「子?!無雪は、結婚していたのですか?!」

体中の血が逆流した気がした。
さっと背中が冷える。

「知らなかったのか」

神主は、不思議そうな顔をしていた。

そんな。
私が、私だけが知らなかった。
子供?結婚?

記憶の糸を手繰り寄せ、目の奥がカッと熱くなった。

そういえば、最近の無雪の腹は大きくなっていた。
肥えていても、無雪は美しいと・・・私は暢気に思っていた。


何故。
何故私に教えなかった。


「あら巫女様・・・どうされました?」

少し遅れて、無雪は屋敷に訪れた。
腹が、大きい。
あそこに子がいる。
・・・・・憎い。


「・・・子を宿したと聞きました」
やっとの思いで、そう口にした。
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