シュバルツ短編

□lustig
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黙ったままのケヴァンに不安を覚えたのか、奏の顔が段々曇ってくる。

その表情にケヴァンはうっと息を詰める。
曇ってきた表情には、薄っすら涙が浮かんできて…。

心なしか、(幻覚の)耳も尻尾もへたり込んでいる。


あ、やばいと思ったとき。

まるでタイミングを見計ったように、奏がポツリと呟いた。


「駄目?」

ちょっと小首を傾げて上目遣い。
しかも手をぎゅっと胸の前で組んで、極めつけは潤んだ目。


これをどうしろと…?


ケヴァンはがっくり肩を落とした。

勝てない…。
これに勝つことなんて、もはや無理だったのだ。
これの味方についた時もそうだったし…。


だから。

「行って来い…」

ケヴァンはもう、こういうしかなかった。



瞬間、奏と内海の顔が輝いた。

「やったー!」
「行ける!行けるぞ、嘉手納〜!!」

2人は手を取り合い、本当に嬉しそうにはしゃぎ合った。


ケヴァンは一気に疲れ、壁に寄りかかった。

もうどうにでもしてくれ。
そんな感じだ。


だがそこで。
再び内海が一言。

「それで?結局神楽崎はついてくんの?」

そうだ、それが問題だった。

思わず許してしまったが、やはりあれに巻き込まれるのは嫌で仕方ない。
むしろ避けたい。

ケヴァンは再び悩み始めた。


そんなケヴァンに、内海はニヤリと笑った。
そして。

「ま、おまえは絶対嫌がるだろと思って、いい方法を考えてきました!」

そんな内海に、ケヴァンと奏は耳を傾ける。
それに得意げになりながら、内海は答えた。

「変装だよ、変装!一番簡単な方法だけど、意外とわかりにくいだろ?それに、あちらさんは変装の達人だけど、達人過ぎて逆にわかんないじゃないかなーって考えたわけ!」

「そっかー」

内海の考えに奏は尊敬したように声を上げ、ケヴァンも『なるほど』と頷いた。

確かに、ケヴァンたち超騎士は変装…が得意だ。
だからこそ、逆に見落とすということも考えられる。

ルーン石もつけないなら、追跡されることもない。


そしてなにより。
それでついて行かないで済むなら、そっちのほうがいい。


「わかった。それでいいだろう」

だからケヴァンは即効で頷いた。

それを聞き、奏と内海の2人は再び手を取り合いはしゃぎ合った。

「よっしゃー!となればさっそく変装して秋葉原に行くぞ嘉手納ー!」
「うん、行こう!!」

と思ったらすぐに立ち上がり、2人はドタバタと用意を始める。

そんな2人に、ケヴァンは最後に気になっていることを尋ねかける。

「おい、その変装というのは」
「任せろ!俺のフィギアの改造で手に入れた技術を舐めんなよ!!」

その問いを半ば遮るように内海は答え、その勢いのまま奏を連れて部屋を出て行った。


そして取り残されたケヴァンと言えば。

「もしかして、即効で行く気か?」

かなり取り残されていた。




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