シュバルツ短編

□Liebeskummer
2ページ/3ページ



「ケヴァン…?」

奏の催促する声。

ケヴァンはもう何度目かになる息を吐いた。


奏も言い出したら頑固だ。
それは良くわかっている。

そして、今も。
きっと諦めないだろう。


「…ね、ぇ?」

キラキラ輝く目が、じっと見上げてくる。


どうしたものか…。

ケヴァンは悩んだ。
どうしたら、奏のこの好奇心を静める事ができるのか。

只管、悩んだ。


でもその間にも。
キラキラ光る目が、見詰めてくる。

その、期待の目が。
キラキラと。


「嘉手納…」


その目に見詰められると…。
流されそうになる。

「ねぇ?ケヴァン?」


ケヴァンは眩暈を覚えた。








そして、我慢できぬように。




「した」


答えた。



その声に、奏は驚いたように目を見開いた。

答えてくれたことに。
そして、その答えに。


「ふ、…ふーん…」

驚き目を見開く奏に、ケヴァンはやはり言わなければ良かったとも思った。

奏は15歳。
別に初心なままでいろとは言わないが…。

でも、やはり。
奏にはどうも似合わないような気がする。
だからケヴァンは言いたくなかったのに。

でも言ってしまった以上、これからのことのほうが問題だ。


「…俺はなりはこうだが、60歳を超えてるんだ。…だから、つまり」

「う、うん。わかってるよ」

言い訳のように呟かれた言葉に、奏はぼんやりと何度も頷く。
意識はどこかにいっているようで、どうもその頷きは虚ろだ。

どうしたものか…。
さらにケヴァンは悩んだ。


と、そんなとき。

「えっと、…ちょっとトイレ」

そう言って、奏が突然立ち上がった。


「嘉手納…?」

突如立ち上がった奏に、ケヴァンは焦って言葉をかける。
でも奏は、まるで耳に入ってないかのごとく慌てて立ち去って。
上の空でドアの向こうへと消えていった。

それを何も出来ぬまま見送りながら、ケヴァンは悩む。

明らかに、奏の様子はおかしかった。
そこから考えるに、奏が思考をおかしな方向に持っていったのは確かだ。


…どうにかしないと。

唸りながら、ケヴァンは考えた。




だが、ふと考える。


何故こんなにも誤解を解かなければならない?
別に放っておいても、特に問題はないはずだ。

奏だって、落ち着けばそのうちわかるはずだ。
これがたいしたことではないことくらい。


でも。
胸に引っ掛かる。


どうしてもこの変な誤解を解きたい。

そう思う。



何故だ。
ケヴァンの答えは、まだでないまま。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ