シュバルツ短編

□Schlafchen
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別にどうしても寝なければいけないという理由はない。
むしろ起きていたっていいのだ。

そこまで激しい支障が出るというわけではないのだから。


でも。

(やっぱりいざ寝られないとなると、気になる…)

眠れない奏は、ぎゅっと眉を寄せた。


どうにか眠れないだろうか、と思う。
このままぐだぐだ考えていたら、さらに眠れなくなるような気がするから。

奏はとりあえずゴロゴロ布団の上を転がってみた。

動けば少しは眠くなるかと思ったから。




だけど。



いくら意味なくゴロゴロ転がっていても、眠気はいっこうにやってこない。


眠いのに。

でも、眠れない。


困った。

奏は悩んだ。




そしてふと無意識に、隣の壁を見た。

その壁の向こうには。




「ケヴァンは、寝ちゃったかな…?」



思わず呟いた名前と共に、奏は布団にもぐりこんだ。


何となく、ケヴァンなら聞こえてそうな気がして。

でもいくら待てども、扉が開くことはない。


普通に考えれば当たり前だ。
あんな呟きに近い小さな声、普通なら聞こえるはずがない。

なのに、どうして。
ケヴァンなら聞こえるんじゃないかと思ってしまったのだろう。

確かにケヴァンは、超騎士として普通の人間ではない並外れた実力を持っているけれど。
でも、さすがのケヴァンでも無理なことはある。


なのに、そう思ってしまった。

有り得ないことなのに。



違う、本当は。



願望、なのだ。


来て欲しい、
聞こえて欲しい。


そんな、奏の願い。




でも聞こえるはずはない。

ましてや、寝ているかもしれないのに。


なのに、わざと起こすような真似、しちゃいけない。





奏は布団に潜り込んだ。



早く、寝なきゃ。

改めて、そう思いながら。





でも、眠気は来ない。





もう夜も中頃を過ぎるのに。





やってこない、眠気。
襲ってくる不安や焦り。




それから逃れるように呟いたのは。


「ケヴァン…」


彼の名前。


呼んでも無駄だとわかっているのに、でも止められない。

不安や焦りから逃れたいから。

ただ、それだけで。



「ケヴァン…、ケヴァン」

ケヴァンを呼ぶ声を、止められなかった。




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