シュバルツ短編

□Schlafchen
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「ケヴァン…ケヴァン…」

まるで呪文の様に繰り返される言葉。
止められない、声。


奏は布団にもぐりこみながら、ひたすらケヴァンの名前を呼び続けた。


でも答えは帰ってこない。
当たり前。

そんなのわかっているのに。


なのに。


「ケヴァン」


でも、呼ぶ声は止められなかった。





そんなとき。








…―カチャ




「?」


扉の開く音がして、奏は慌てて起き上がった。



もしかして、
まさか。


そんな微かな希望を持って。



僅かに音を立て、開いていく扉。

その先に見えたのは。



「ケヴァン」


奏は思わず目を見開いた。



だって、信じられない。
まさか願っていたことが、現実に叶うなんて。


でも、本物なのだろうか?

もしかしたら夢かもしれない。


いつのまにか眠っていて、こんな夢を見ているのかもしれない。


そんなことまで考えた。




でも。




「おい」

その声が、それを嘘ではないということを表わしていた。


「嘘…なんで?」


でも、わからない。
何故、ほんとにケヴァンが来てくれたのか。

奏は戸惑ったようにケヴァンを見た。


するとケヴァンは。

「嘘?おまえが呼んだんだろうが」

と言って、奏を睨んだ。


それに奏は『え?』と首を傾げる。


呼んだ?
まさか、あの声で聞こえたのか?


奏は信じられなかった。



だけど。


ケヴァンは気まずそうに顔を背けたことで、新たな謎が生まれる。



もしかして。
もしかして。


「もしかして…ドアの外に居た?」

「たまたまだ。トイレに行った帰りに、呼ぶ声が聞こえただけだ」


気まずそうなケヴァン。

そんなケヴァンに、奏は何となく嬉しくなってくる。



「えへへ…ありがとう」


奏はケヴァンに微笑みかけた。
そんな奏の笑みを受け、ケヴァンはそっぽを向く。
恥ずかしそうに。


やっぱり、そうなんだ。

それを確認でき、さらに嬉しくなった。


甘やかしてくれているのだろうか。
そう思うと、本当に嬉しくなった。

だから。

「ねぇ、一緒に寝ても…いい?」

ちょっとだけ、言ってみた。




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