シュバルツ短編2

□Neujahr
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多少の邪魔は入ったものの、欲しいものの在り処を知ったケヴァンは、さっそくコンビニに向かい袋を買ってきた。(ちなみに言っておくと、ジュードから貰った(いらないと言いつつちゃっかり頂いた)お年玉を使ってだ)。

欲しかったものを手に入れたケヴァンは、もう1つ用事を終えてから、手に入れたものの中に"それ"を入れる。
それですべての準備が完了だ。

ケヴァンは満足そうに笑った。



後はこれを渡すだけ。



ケヴァンは改めて緒方家へと向かった。






………










「ケヴァン、どこに行ってたの?」

緒方家に戻ったケヴァンを迎えたのは、不思議そうに首を傾げた奏だった。

どうやらそうは出て行ったケヴァンを心配して、玄関の傍でずっと待っていたらしい。
寒さのためか少し赤らんだ指先と頬がそれを表している。

そこまでして待っていなくてもよかったのに、とケヴァンは思ったが、奏の心配そうな顔を見て言葉を呑みこむ。
自分の目的にすっかり気を取られていたが、そういれば何も言わずに出てきてしまった。
随分心配させてしまったのだろう。

「すまない、少し用事があったから出ていたんだ」

本当にすまなさそうにケヴァンが頭を下げれば、奏はそれに驚きながらも「そうだったんだね」とふわりと笑った。

ほわほわとしたその温かい笑顔に思わず見惚れていると、奥からひとみたちが顔を出してきた。
「あら、帰ってたのね」
「おかえり、神楽崎君」
「…そのまま帰ってこなくても良かったのに…」
「もう、どこに行ってたの?…私の話の途中で出て行きやがって…」

顔を出した緒方家の人々は、各々に帰って来たケヴァンを出迎える。
先の夫婦は温かく出迎えてくれているが、後の兄妹は歓迎ムードではない。むしろ殺意すら伺える。

そんな兄妹たちの態度に呆れケヴァンが溜息を吐いていると、ひとみが何かを思い出したように慌てて駆け寄ってきた。

「これ、神楽崎君に渡そうと思って。本当は奏のときと一緒に渡そうと思ってたんだけど」

「はい」と言って渡されたのは、奏と同じお年玉。
「無駄遣いは駄目よ」と言ったひとみの顔は、にこにこと笑顔が溢れている。

その笑みを見てから、ケヴァンは改めて差し出されたお年玉を見て。

「ありがとうございます」

にっこりと微笑みを浮かべてそれを受け取った。
それはもう、歳相応(見た目年齢のみ考慮)の純粋な笑顔だ。

そんなケヴァンの微笑みに満足したようにひとみも努も笑った。
奏も「よかったね」と嬉しそうだ。(…奏はケヴァンの実年齢を知っているはずなのだが)

さて目的は果たしたと夫婦はそそくさと退散し、長閑な雰囲気にやってられないと兄妹たちもさっさと自分の部屋へと引き篭もってしまった。

その場に残されたのはケヴァンと奏の2人。
「行っちゃったねー」と呟く奏と2人きりの状態は、ケヴァンにとっては好都合だった。

「嘉手納、実はな…」

ケヴァンは期待に胸を躍らせながら、ポケットに入れておいたものを取り出してくる。

「ん?」

いつもの冷静な彼にしては少し弾んだ声に、奏は不思議そうに振り返る。
何かいいことでもあったのかな?それが用事だったのかな?と奏はケヴァンの方を見た。

そんな奏の視線を受けながら、ケヴァンは胸元を探り用意してきたものを取り出した。

ケヴァンの懐から出てきたものを、奏は覗き込む。

「ん、…んー?」

ケヴァンの手の中にあったのは…お年玉。
しかも先程ひとみ叔母さんがあげたものではない。

そのお年玉を見て奏は首を傾げた。
そして、

「んー…と…。…誰かから貰ったの?」

奏は首を傾げながら、何に迷い無く問い掛けた。

「…………………………………」

あまりに真っ直ぐな問い掛けに、ケヴァンも一瞬固まる。
いや、確かにひとみ叔母さんたちからのお年玉は有り難く頂いたが。
こんななりはしているが…!

「…確かに…導師から貰ったが……これではない…」

とりあえず貰ったことは素直に答えつつ、だがこれではないこともはっきり答えた。
これは、奏のためにと自分自身で…。

「…えっと、じゃあ…オレのお年玉預かってきてくれた、とか?」

それは無いかー、と笑う奏に、ケヴァンはがっくりと肩を落とした。
ケヴァンのその反応に、さすがの奏も慌てた。

「え、え、えっと、あれ?やっぱりこれも違う?えっと、じゃあ…えーっと…」

つい先程まであんなに喜んでいたのに、今やがっくりと肩を落としてしまったケヴァン。
自分のせい?何か間違ってただろうか??と、奏は焦った。

あわあわと必死に言葉を探そうとしている奏を上目で見やり、ケヴァンは小さく溜息を零す。

奏は本当に思いつかないのだろう。
えーっと、えーっと、と頭を抱えて考えている姿はいっそ憐れなくらいだ。

必死に頭を悩ませている奏を見やり、もう一度息を零した後、

「嘉手納、俺の本当の年齢…覚えてるか?」

ケヴァンは表情を切り替え、悩みすぎて泣きかけている奏に尋ねた。
その問い掛けに、奏は涙の潤み始めた顔をぱっと上げる。

「ん、覚えてる!半世紀以上生きてるって!」

つまり50歳以上だよね、と奏は潤んでいた涙を拭き取りながら元気よく答えた。
元気を取り戻したらしい奏にほっと息を吐きつつ、次の質問を投げかける。

「つまり。現実的に50歳以上というと?」
「んー、……おじいちゃん?」

奏の答えにケヴァンは「そうだ」と、頷く。

「で、お年玉っていうのは誰が誰にあげる物なんだ?」

続けざまの質問に、奏は「はい!」とまるで学校の生徒かの様に手を上げながら答えた。

「大人が子どもにあげるものです!」

元気な答えに思わず「正解」と先生のように返事を返しながら、ケヴァンは改めて手の中のお年玉を差し出す。
それをじっと見つめながら、奏は首を傾げてしまいそうなのを抑えて今までの質問を思い返した。

ケヴァンが不必要な質問をするはずない。
となると、今までの質問を思い返していけば…。

「あ」

もしかして、と思い差し出されたお年玉を受け止めながら「ありがとう」とお礼を言ってみると。





「ん」

奏が受け取ったのを見て、ケヴァンはやっと満足したように笑った。

その笑みをみて、奏は自分の行動が正解だったことに気付く。




ケヴァンが求めていたことを当てたことが嬉しくて。
彼が自分の為にお年玉を用意してくれたことが嬉しくて。
そして受け取ったときのケヴァンの笑みが嬉しくて。




「ありがとう!」

奏は自然と緩む頬そのままに、もう一度お礼を言った。


その笑みを受けたケヴァンは、少しだけ眩しそうに目を細めて。
そして、

「どういたしまして」

と、さらに笑みを深めた。












その日、ケヴァンはあることを理解したという。

「何故この国の大人が、子どもにお年玉をやるのかわかった気がする」

喜ぶ顔が見たいのだと。
だから自分も自然と、嘉手納にお年玉をあげたいと思ったのだと。

「それって、おじいちゃんの感覚だよね」

しみじみと頷くケヴァンに、奏が苦笑しながら声を掛ける。
だがそんな奏の呟きに、ケヴァンはさも当然の様に答える。

「だから現実的に爺さんだと言っているだろう」

きっぱりと答えた見た目15歳の顔が可笑しくて。
奏は思わず笑ってしまった。














人間見た目じゃないんです。

ちゃんと中身を考慮してくださいね?















end.


Neujahr
『新年』


















おまけ





「ケヴァン。カナデから聞いたのだが、緒方夫妻のオトシダマは快く受け取ったそうじゃないか!」

泣きそうな勢いで食い掛る師に、ケヴァンはきっぱりと答えた。

「導師とは違って、緒方夫妻は俺の実年齢を知りませんから」

本当に!心から!15歳の子どもに!…とくれたものだから、頂くのは当然でしょう。
一言一言はっきりと区切りながら答えた弟子に、ジュードはがっくりと肩を落とした。


こんなんなら、自分も弟子の中身を知らなければよかったと。






ほんとにend.



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