古びた大学ノート

□INDIGO BLUE-続-
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≪藍色の夢と訪問者≫
それは、冷え込む朝に二度寝をしていて見た、淡い夢。
幼い私が笑っている。
暖かな母さんの腕が、しっかりと私を抱いている。私にその長い髪の毛を引っ張られ、たしなめる表情はとても穏やか。
傍らで、父さんも笑っている。私の頭を撫でて、何かをつぶやいた。
ああ。
もう、二人の顔も思い出せないけれど。
とても、暖かで。
とても、穏やかで。
とても、幸せでした。



「う・・・ん」
目を開けると、半裸の若い男がにやにやしながら私を覗き込んでいた。
「・・・えいっ」
「ふがっ!?」
なので、その鼻っ面に頭突きをお見舞いしてやった。
ごつっと、鈍い音が耳に心地いい。
「〜〜!!!」
「おはよう、ファル。抗議なら落ち着いてから言うんだな。それに、気持ち悪いことはするなと何度も言ってるだろ?」
このお馬鹿は、ファルという。私の幼馴染・・・というよりは、兄に近いかな。幼少のころから一緒に育てられたから。

そう。
私に今、両親はいない。物心つくころには父さんは行方不明だったし、アトラビリスの襲撃で母さんも死んだ。
でも、寂しくはない。
こうして何度か夢で両親に会えるし、なにより私には親代わりをしてくれる先生がいる。兄のようなファルもいる。
とても、幸せなことだと思う。

ずっとこの身に封じていたアトラビリスも、もういない。いるのは、大切なこの家族と、仲間たち。

「おはよう。ほらほら、起きたら顔洗って挨拶だろうが。」
寝室に、先生が入ってきた。
「おはようございます、先生。」
「珍しく寝坊じゃねえか、ラピス。それとも、朝からファルの奴とじゃれてたのか?」
「おう、ラピスの奴ひでえんだ。起きるなり俺に頭突きだぜ。」
「朝一番にあんなにいやらしい笑顔で覗き込まれれば、頭突きのひとつもしたくなる。」
「うう、それは、その・・・寝顔が可愛かったからつい・・・」
「わかったわかった。それから、半裸で寝ると腹を壊すって何度も言ったろ。とっとと服を着て朝飯を作りやがれ。」
先生が一喝した。
この家では、ファルが炊事担当だ。私は料理は好きじゃないし、得意じゃない。先生は・・・ええと、私の口からはとても言えない。

そのとき。
玄関から、戸を叩く音がした。
朝から、誰だろう。
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