古びた大学ノート

□『Sigillum』
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《一日目》

「うん。これで準備完了。」
少女は、姿見の鏡の前で頷いた。
取り寄せた制服はちゃんと着たし、靴下は新品の黒いハイソックス。髪の毛は肩にかからないように切り、よく梳いた。
カバンは図書類を入れる革のものと、掃除のときや鍛練で使う衣類を入れる大きなものに分けた。
「さて…」
部屋を出る前に、師匠からの指示を読み返す。
「担当、御影玲。任務内容、盗品の探索と奪還。場所、桜ヶ丘中学校およびその学区内。期間、最長で半年。備考、人前での魔法は厳禁!…って、なんで最後だけ手書きで、マーカーまで引いてあるのさ」
ふくれながら、プリントを机の引き出しにしまう。
さて、「登校」の時間だ。あぁ緊張する。

かくして私は、はじめての特別任務に入ったのだった。



朝一番のチャイムが鳴る。

さて、さぼり癖のある俺がなぜ学校で、この鐘を聞いているか…
ただ単に、
居候先の先輩が朝一の仕事があるため、追い出されただけである。
…家出?
まぁ簡単に言うと、そういうことだ。かれこれ数か月、親に会っていない。
名を蛇神獏(ヘビガミ バク)という、俺は若くして天涯孤独の男である。…かっこよくね?

「さて、静かに!」
担任のオッサンが入ってくるなり、
「センセ、今日、転校生来るって本当?」
「あ〜はいはい、さすが情報通だよ綱島は。てなわけで、席つけ。」
女子どもが、きゃっきゃしながら席につく。担任が廊下に向かって手招きした瞬間、

寒気が、走った。

「御影玲(ミカゲ レイ)さんだ。外国の日本人学校からの転校生で、今日からみんなのクラスメイトだ。」
入ってきたのは、小柄な女子だった。
いや、女子に見える「なにか」だ。
うなじ方面が短くサイドが長いという変な髪型や、転校初日からミニスカやパーカーやら舐めた格好をしているあたり、やっぱ変な女な気がするが…
いや、そうじゃない。

カカシやマネキンが、悪意をもって人間に擬態している、という印象を受けた。

…いや、電波じゃないぞ、俺は。ちょっとだけ霊感?みたいなのがあるだけだ。

「さて…自己紹介…の前に、パーカーは脱ぎなさい」
「え?」
御影、と名乗った女子は、怪訝な顔で首をかしげる。
「制服はちゃんと着てる。コレは…変なのか?」
「変ていうか、校則違反だから…」
「…。」
しぶしぶパーカーを脱ぎ、困った顔のまま、こちらを向き直る。
…無言。
「はい!」
さっき騒いでた女子が挙手をする。
「御影さんはどこの国から来たの?趣味は?」
あー始まったよ。
「…。」
しばし考えた御影は、
「アジアのどこか。詳しくは秘密。趣味?趣味ってなんだっけ…ええと、好きなことか。好きなことは、魔法だな。」
…おいおい。
正真正銘の電波かい。
「なんだか…変わった子だな…まぁ、みんな仲良くするように。」
御影は案内に従って、席についた。

俺の寒気はまだ、止まっていなかった。
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