古びた大学ノート

□LA〜Seed Cluster〜
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《第一章〜力持つ者〜》

「…ふぅ」
都市のゴミ溜めみたいな路地裏。
俺は、足下に何人もの不良を踏み転がして、溜め息をついた。
喧嘩に勝つなんて簡単だ。相手が拳を振らない方向に避けながら、欲望のままに殴り倒せばいいのだから。何人来たって同じこと。

「みてみて!このブーツ、新調したのよ!いいでしょ?」(まぁ、あたしが履くから可愛いんだけどね)
「うわぁいいなぁ、超可愛い!」(ちくしょう、私が履けばもっと可愛いのに。この馬子にも衣装が…)
路地裏からメインストリートに出たら、俺の目の前を、女子高生が通った。俺はその頭上の汚い本心を読んでウンザリした。

俺は、人の心が読めるのだ。

なんで人は、こんなに嘘つきなんだろう。なんで自分は嘘つきとわかっていて、また嘘をつくんだろう。俺もまた、なんでそう思っていても嘘をつくんだろう?

なんで俺は、人の心が読めるんだろう。なんで俺だけ、そんな特種能力を持ってるんだろう。なのに、なんで俺はそれを有効活用せずに、苛々して喧嘩ばかりしているんだろう?

俺は、嘘だらけの世界が、人が、大嫌いだ。

俺は、わずらわしいだけのこの能力が、自分が、大嫌いだ。

「すっげぇ!お前、一人でやったのか?」
「…?」
俺が振り向くと、さっきの路地裏から一人の少年がこっちに手を振っていた。
「強いんだなお前!」
「…?」
なんか、ヘンだ。
俺は目をこすった。この少年は、歳のところは俺と同じくらい。でも歳のわりに幼い…活発そうな目をしている。髪はざんばらで、燃えるような赤い色。
ああ、そうか。

こいつの頭上には、なんの本心も浮かばない。だから変なんだ。

「なんだよ?俺の頭になんかついてる?なんで頭ばっか見るんだ?」
「いや。何も…その…お前、なんだ?」
俺は、無意識に身構えた。
「俺の名前は、紅爆。あんたは?」
紅爆?日本人の名前じゃ…ない?
しかし日本語は流暢だ。つくづく妙だ。
「俺は叶賢人。俺になんの用だ?喧嘩のふっかけか?」
「違うよ。話がしたいだけなんだ。」
なおも本心は見えない。俺は激しい不安にかられた。
「…どうしたんだよ?」
「あ…いや、なんでもない。わかった、話だな。聞くよ。」
「よっしゃ!じゃマック入ろうぜマック!」
俺は、その不思議な少年に惹かれ、ついていった。

それは俺の…
人生捧げる「道」に踏み入った瞬間だった。
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