古びた大学ノート

□ROCK'N-R・P・G-
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「…なぁ、小山。例の失踪事件、また一人だってさ。」
「知ってる。親父が今朝も、新聞を切り取ってファイリングしてたから。」
「そうか…」

あの豪雪の夜、兄貴は先輩に会うと言って家を出たきり、行方不明になった。大学に問い合わせて先輩や同期をあらっても手掛かりなし。警察はお手上げ、事件は完全に手詰まり。
しかし、事件はそれで終わらなかった。同じように突然失踪する人があちこちで報告されたのだ。互いに面識なし、失踪に心当たりなし。まさに怪事件だ。

あの晩から2か月。オレは無事に2年生。兄貴は無事でいるのだろうか―…


「?」
学校から帰って、着替えて一息。と、そのとき玄関から呼び鈴が鳴るのを聞いた。まだ夕方で、家にはオレしかいないから、出るしかない。
「はい、小山です。」
ドアを開けると、そこに立っていたのは若い女性だった。歳はオレより上に見えるくらいで、第一印象は「うわ、ヤンキー来たヤンキー。」…どっかのエキゾチックな民族の祭りかいっ!てくらいのコテコテの化粧をしていて、金髪にグレーやピンクのメッシュを入れている。首から上はこんなに濃ゆいのに、着ているのはパジャマみたいなグレーのスエット。足下はホルスタイン牛模様の健康サンダル…。
「…えぇと…」
「失礼。小山悟君の家で合ってるか?」
あれ。見た目の印象より、落ち着いた話し方をするみたいだ。
「そうですけど…」
「良かった。私は悟君の大学の知り合いで、大宮というんだ。初めまして。」
うわ、この人東大生か。
「悟君の失踪について、私もいろいろ調べていてね。少々、彼の部屋を見せてもらいたいんだ。手掛かりになるものがあるかもしれない。」
「いいですよ。上がってください。」
見た目はともかく、なんだか頼りがいのある真っ直ぐな人に見えた。だからあんまり警戒もせず、兄貴の部屋に上げた。

大宮さんは携帯電話で誰かと何かを話しながら、兄貴の机の中身をひっくり返す。でも、表情からしてあんまりいい成果は上がっていないらしい。
「大宮さん。もしかしたらあなたなら…」
「ん?」
前に警察とこの部屋をひっくり返したとき、押し入れからおかしなノートが数冊出て来たのだ。教科の名前が書いていない大学ノートで、中身はすべて、びっしりと謎の数式。はじめは物理学や情報処理の自主学習かと思ったが、なんと専門家さえ匙投げ。本気で謎のノートなのだ。
オレはそのノートを、大宮さんに手渡した。
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