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□君と二人ともに死ねたなら
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黒い煙が立ち込めるアジト。
血と硝煙の匂いが充満する室内で、長身の男がゆっくりと立ち上がった。
男の身体は返り血で真っ赤に染まっており、漆黒のスーツは血でてらてらと光っている。
「あぁ・・・、せっかく綱吉くんに選んでもらったスーツが汚い血で台無しですね。気に入っていたのに、残念です。」
「ぐうぅ・・・っ・・・」
数時間前まではのんきに酒を飲みながらポーカーに興じていた中年の男は、今はたった一人の侵入者の手によって見るも無残な姿へと形を変えてしまっている。それでもなお息があるのは、不幸にも一般人よりは強靭な身体をもっているせいだろう。
「き・・・さま・・・、ボンゴレ・・の・・・」
「おや、僕のことを知っているのですか?こんな小さなファミリーにしてはそこそこ情報を持っているようですね。」
クフフ・・・と血の塊と化している男を見下ろしながら、ボンゴレの霧の守護者は嘲笑を漏らした。
「何の、ために・・・こんな・・・我らがお前たちに・・何をしたと・・・!?」
心当たりは、何もなかった。
確かに、自分たちはイタリアでも中の下ほどに位置するファミリーだ。だからこそ、あのボンゴレに手を出そうなどと考えたことすらない。
それなのに、何故このボンゴレの守護者は自分たちを襲ったのだろう。
「目的ですか?そんなの、もう直に息絶えるあなたが聞いてもしょうがないことでしょう。・・・そろそろここも火が回りますね、僕はこの辺りで失礼します。先に逝っているお仲間たちによろしく。」
そういい残して背を向けた骸の後ろで、ヒュウヒュウと不規則な呼吸を繰り返す男はボソボソと呻いた。
「・・・ぼ・・・す・・・・・・」
「・・・?」
いつもなら気にも留めないほどの戯言に振り向いたのは、気まぐれとほんの少しの好奇心。
(この男、最期まで主人の心配ですか。なかなか大した忠誠心ですねぇ。)
おそらくもう見えていないであろう目で、もう動かないはずの腕で、大切な人を懸命に探している。
なんとも滑稽なその姿に、不思議と笑いはこみ上げてこなかった。
「・・・す・・・、・・・ぼ・・す・・・」
「・・・。」
骸はちらり、と視線をずらした。自分たちより2メートルほど離れた場所に、この男の探している男が倒れている。もちろん、とっくに事切れているが。
「ボス・・・を、一人で・・・逝かせるわけにゃあ・・・いかねぇ・・・。俺も・・・お、傍・・・・・・に・・・」
ゴフッと男の口から大量の血が吹き出した。
男はとうとう力尽き、静かに息を引き取った。
「・・・アッディーオ。」
その瞬間、骸の姿は霧に包まれて静かに消えた。