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□それはある穏やかな午後のこと。
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ボンゴレ特殊暗殺部隊ヴァリアーに身を置く小さな術士は、目の前で眠る金の髪の王子を見つめた。
長い前髪のせいで、顔の上半分は隠されている。

ルビーのような赤?
エメラルドのような翠?
ブルーダイヤのような青?

マーモンはベルの見えない瞳を想像するのが好きだった。きっと高貴で、美しい色をしているのだろう。
もちろん、隠されると余計に見たくなるのが人の性というものだが、マーモンは決して力ずくで暴こうとはしない。

(きっと見せたくない理由があるんだよね。)

自分だって、フードで隠している顔をむりやり暴かれたら嫌だ。そんな共通な想いがあるからこそ、この二人は誰よりも信頼しあっている。
だからマーモンは、想像して楽しむ。愛しいこの少年は、どんなに美しい顔をしているのか。

「・・・マーモンってさ、俺が寝てるといっつもじーっと俺の顔見てるよね。そんなに気になる?俺の顔。」

「起きてたのかい、ベル。」

イタズラ好きの王子は、こっそり自分のことを観察していたらしい。マーモンはベルに魅入っていたせいでその視線に気付くことができなかった。それが少し悔しくて、ぷいっと顔を背ける。

「・・・そりゃあ少しはね、気になるよ。でも、隠してるってことは何か見せたくない理由があるんだろう?」

可愛らしいマーモンの態度に、ベルはクスリと小さく笑った。

「んー、まぁ一応あるにはあるよ。マーモンだけには絶対に見せたくないリユウがさ。」

「・・・何だい、ソレ・・・。僕には見せたくなくて、他のやつならみせても良いってこと?」

予想外のベルの言葉は、すくなからずマーモンを傷付けた。ベルは自分のことを一番信頼してくれていると思っていたから。少なくとも、マーモンはベルのことを一番に信頼していた。その信頼を、裏切られた気分だ。

「怒った?マーモン。」

「・・・別に。ベルのことなんて僕には関係ないよ。起きたんならさっさと出て行ってくれる?僕、これから調べ物するんだから。」

「・・・。」

明らかに動揺しているマーモンに、ベルは横になっていたベッドから起き上がると、俯くマーモンをそっと抱き上げた。

「離してよ。」

「ししっ、嫌だね。」

小さな小さなその体を抱きしめて、フードに顔を埋める。
始めは抵抗していたマーモンも、すぐにおとなしくなった。

「・・・なんで、こんなことするのさ・・・?ベルは僕のことが嫌いなんじゃないのかい・・・」

「は?なんでそうなるワケー?俺が嫌いなやつのベッドで寝るわけないっしょ。」

「なら、どうして僕にだけ顔をみせたくないんだよ?」

「・・・だってさ・・・」

「・・・?」

突然歯切れが悪くなったベルに、マーモンは怒っていたのも忘れベルの囁きのような小さな声に耳を傾けた。

「だって、マーモンあのボンゴレの霧の守護者大嫌いって言ってたろ?」

「え・・・?」

なぜ、今あの男の話題が出てくるのか意味がわからなかった。たしかにあの男は殺してやりたいほど憎いが。

「あいつとベルが何か関係しているのかい?」

「・・・俺の顔見ても、絶対にキライにならないって約束する?」

さきほどからいまいち会話がかみ合ってないが、とりあえずマーモンは「もちろん」と頷いた。
ベルはそれを確認すると、片手で自分の前髪をそっと上げた。

「・・・!!」

「・・・・・・。」

晒されたその顔は、マーモンがずっと想像していた通り、美しいものだった。美少年とはまさにベルのことだろう、と思うほど。人形のように真っ白な肌は、暗殺部隊の一員だというのに傷一つない。細い眉は綺麗に揃っており、長い睫毛は髪と同じ金色をしている。しかし、驚くべきところはそこではなかった。

「・・・ベル、君・・・オッドアイだったの・・・?」

伏せがちに開かれたその瞳は、左右で色が異なっていた。
右は血のように鮮やかなルビーレッド。左は海の底のように深いブルー。

(だから、か・・・。)

ベルが、あのボンゴレの霧の守護者の話を出したのは。あの男も、赤と青のオッドアイだった・・・。
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