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□想い出ノスタルジア
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『いい加減に泣き止め馬鹿弟子、』
『俺は聞き分けの無いガキは嫌いだ』
『アレン、』


『………解った俺が悪かった。だから、』



これで手を打たないか?










【想い出ノスタルジア】












「そういやアレンって団服の下もキッチリ着てんだな」

特に大きな任務も無く、偵察に出向いた何人かのファインダーを除いては、珍しく暇を持て余していた教団内。
科学班の面々も例外では無く、リナリーが入れたコーヒーで一息ついた時の、リーバーの何気ない一言だった。
室内に居合わせた全員の視線がアレンへと注がれる。

「そういえばそうさね」
「え、皆なにも着てないんですか?」
「……そうでなくて、」


きっちりしてんなー、て事。

ちょんちょん、とラビがアレンのリボンを突く。


「変ですか?」
「いや、別に変では無いけど。普通は動き易いようにあんま着込まないモンじゃねェの?」
「あ、俺はソッチ派さー」
「ラビは普段着だって着込まないじゃない。そういえばアレンくんたまにベストも着てるわよね」
「マジで?俺だったら肩凝って死ぬかも」
「ベストはともかく、そんなに苦しくないですよ。それに、」


そっ、とリボンに触れる。


「これ、しとかないと落ち着かないんですよね」

宝物なんです、と少年は笑った。













「師匠、今日もお出かけですか?」
「あぁ」
「ぼくも行っちゃだめですか?」
「駄目だな。お前が来る所じゃない」
「…どうして?」
「お前が来ると子持ちだと思われて誰も寄りつかんだろうが馬鹿弟子」


つまりは女の人の所に行くんですね、とアレンは溜め息をついた。

「ひどいです師匠、ぼくというそんざいがありながら!」
「お前そんな言葉どこで覚えたんだ」
「きのうポーカーで勝負したおじさんがおしえてくれました」
「…」


ちっ、とあからさまな舌打ちが聞こえて、アレンはちょっと悲しくなった。
ししょう、と甘えるように呼んでみても左手に縋ってみても、最終的には溜め息をついて引き剥がされた。別に今に始まった事ではないけれど、それでも置いていかれるという現実は辛かった。


「…ぼくも一緒に行きたいです」
「無理だな」
「ちょっと離れたとこに座ってますから、」
「却下」
「……師匠」
「ガキに付き合ってる暇は無い」


くるりと背を向けて歩き出す。
アレンがどんなに呼び掛けても振り返る事すらせずに向かうのは、きっと昨日とは違う女のヒト。


「今日は夜には戻る」

またそんな嘘つくんですか。

「但しもし帰らなかった時は、」

ほら、やっぱり帰る気なんて無いんでしょう。

「この金を使え」

使いません、そんなドコの女性から貢がれたかも判らないお金なんて。

「おいアレン、」

「…………ぅ」

「?」






「うわぁあぁ゙あ゙あああ゙ん!!」

「ッ!?おい、」


わんわんと大声で泣き出した少年を見て、今日一番の深い溜め息と共にうんざりだと言わんばかりの表情で耳を塞ぐ。


「師匠行っぢゃイヤですぅ!!」
「いい加減に泣き止め馬鹿弟子、」
「ぼくだって一緒に行きだいのに゙ぃッ」
「俺は聞き分けの無いガキは嫌いだ」
「やだやだやだやだ一緒に行ぐんですからぁ゙!!」
「アレン、」
「うぁああああん!!」


(、これはもう何を言っても逆効果だな)
こうなっては仕方ないと、そっと両手を耳から離す。
途端に流れ込む聴覚を狂わせるような泣き声に顔をしかめながら、それでも嫌々と首を振り続ける少年の前に膝をつく。

「………解った俺が悪かった。だからアレン、」


これで手を打ってくれないか。




クロスの両手がアレンの細い首へ伸びる。
そのまま絞め殺されるとでも思ったのか、強く目を瞑った少年に苦笑して素早くソレを結ぶ。
もう時間が無い。


「……ししょう?」
「お前にやる。どうやらお前はガキの癖に大層嫉妬深いらしいからな」


いつもの余裕ぶった表情でそう言って、あの人は結局一人で出掛けてしまったけれど。


「師匠から、貰っちゃった…」


満面の笑みでくるくるとリボンを弄りながら呟く。


(うそ泣きした甲斐がありました!)
これで貴方といつでも一緒!





*****
なんだかんだ言ってアレンに甘いと良い。

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