濃藍の海
□砂埃
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風に舞った砂がまとわりついてきて、ふとあの男を思った。
本当に嫌な奴だけど…何故か忘れられない。
ああ、砂埃が目に入って、痛い。
アイツならいいのに、と思う自分が不思議だった。
「麦わら」
とん、と小突かれて、我に返る。
海の向こうを見つめ、エースを思っていたはずなのに…いつの間にか数ヶ月前の、どうという事もない記憶に囚われていたみたいだ。
「なんだよ、クロコダイル」
あの時思った相手が今目の前にいる。
「何か用か?」
妙な気恥ずかしさを隠して問えば、苛立たしげに
「イワンコフの野郎が呼んでる」
と答えた。
「へえ、オマエがパシリするなんてな」
「うるせえ」
本当にイワちゃんには頭が上がらないらしい。苦々しげにおれから目を背けたクロコダイルは、でも立ち去ろうとはしないでそのまま海を眺め始めた。
だから問うてみる。
「なあ、ワニ」
「………」
「イワちゃんとは、どんな知り合いなんだ」
「テメエには関係ねえだろう。とっとと行け」
こちらを一瞥もせずに吐き捨てられ、おれは諦めてイワちゃんの元へ向かうことにした。
…目に焼き付いた、海をバックにしたアイツの横顔は、嫌いじゃなかった。
鎖に繋がれて、シャバを思う。
昔のことを振り返る趣味はねえが、アイツ…麦わらの記憶だけは鮮烈で、よく思い出す。
あのまっすぐな目は、今何を見ている?
仲間のために全てをかけるあのガキは…今何をしている?
埒もないことを考え続ける濁った日々。
眩しすぎる光とともに割って入ったのは、やはりアイツだった。
「ワニ」
驚いて振り返ると、麦わらが立っていた。
もう話は終わったのか。
ひょい、と近づき覗き込んでくる。
視線が痛い。
「なー、ワニ」
「なんだ」
「おれ、時々オマエのこと思い出してた」
…何を、言い出すんだ、コイツは。
「………」
「ワニはおれのこと思い出したりしたか?」
「………まぁな」
「そっか!」
明るく言って少し笑い、麦わらは満足したように去った。
「クソ……なんだよ」
アイツの言葉に衝撃が走り、笑顔に体が痺れて、動けない。
長い間無縁だった感情が芽生えたような気さえして、腹立たしかった。
傍にいてやりたい、なんて。
まるで…それは。
あり得ない結論に至りかけて、慌てて思考を止める。
波の向こうに見え始めた壁に、気を引き締めた。
呆けている場合ではない。
戦いが、始まる。
fin.
初の鰐ルでした!
×というより、ただの+な気もしますがw
エース奪還に向かう途中の一幕です。
こんな余裕ないかもしれないけど、あってほしいなー、と。
実はお互い想ってたんだよ、みたいな。
2010.06.21.