深緑の国

□Golden Moon
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秋も深まる十月のある夜。

冬を感じさせる風が吹いて、僕は軽くニット帽を押さえた。
隣の公園からだろうか、金木犀の甘い香りが鼻をゆるりと掠めていく。

「あー、寒…」

パーカーのファスナーをきっちりと締めて、冷えていく空気にささやかな抵抗をした。

「相変わらずのコネコちゃんぶりだな、まるほどう」

ニヤニヤと笑って僕を揶揄するのは、僕の恋人。

「酷いなあ。そろそろコネコちゃんは止めてくださいって、言ってるじゃないですか」

僕の弁護士資格が剥奪されて、7年。
コネコだなんて呼んでもらえる程の純粋さは、もう残っちゃいないから。

今だって、ほら。
この年月の間に染み着いた嘘くさい笑みを浮かべている。
大好きな貴方の前なのに、ね。

「異議あり!アンタはカワイイコネコちゃんだぜ?オレにとっては、な」

彼は笑って、優しく僕の肩を抱き寄せた。
暖かな腕の中に収まり、彼と同じ歩調で歩く。…否、彼が僕に歩調を合わせてくれている、と言うべきか。
僕は目を伏せ、物思いに耽る。


ごめんなさい、この7年、貴方を巻き込んでしまって。
ごめんなさい、貴方を本当に愛してます。
ごめんなさい。
ごめんなさい…


伝えたい言葉が山のようにあって、口を開くけれど…声は出ず、白い息だけが瞬間空に漂う。

疑惑という闇に呑まれた僕と、罪という闇を背負い続けている貴方。
誰よりも真実を求め、誰よりも犯罪を憎んだ僕たちなのに…いつの間にか、闇と共に在る。


「龍一」

今夜は月も無い。
闇に紛れて、二人だけ。
闇に囚われた僕たち。

「なあ、龍一、オレを見な」

呼ばれて顔を上げると、出会った頃と変わらぬ精悍な顔がじっと僕を見つめていた。


「オレは…アンタのそばに居る。何があっても、見捨てたりしねえ。…この手を、成歩堂龍一、アンタが離さねえ限りな」

嗚呼、貴方は何故いつもそうして、僕の考えを読んで慰めてくれるの?

力強く引き寄せられて、僕は彼の胸に抱きしめられた。
少しだけ体を離し、ゆっくりとキスをする。
いつもなら外でこんな事、しない。
けど、今は闇に包まれて。今の僕たちは闇は敵じゃないから。闇に守られて。
心細さを払拭するために、お互いの温もりを確かめあう。


ぼくの未来に ひかりなどなくても
誰かがぼくのことを どこかでわらっていても
君のあしたが みにくくゆがんでも
ぼくらが二度と 純粋を手に入れられなくても

夜空に光る 黄金の月などなくても


貴方と何処までも生きてゆく。
貴方をいつまでも愛している。



fin.

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1000hit、本当にありがとうございます!
4設定でゴドナルを書いてみました。

スガシカオさんの「黄金の月」をモチーフにしています。

お持ち帰り自由です。
お気に召しましたら、どうぞ!


2008.10.10.

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