雪原の死闘

□銃剣の夜
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「Medi-c!」


半分意識を飛ばしかけていたところに自分を呼ぶ声が聞こえて一気に眠気が覚めた。

ツボから飛び出して声の方に向かうと月明かりにぼんやり照らされて木に寄りかかるタルバートが見えた。

必死に介抱しているのはジョーだった。

「息はできるか?俺を見ろ、」

タルバートの鳩尾辺りが赤く染まっていた。
ジョーに変わってタルバートの前に、
意識はしっかりしてるし、ジョーの言葉に反抗までしてるから大丈夫そうだ。

「死ぬなよ」

「死なねぇよ!」

相当熱くなってる。

「歩けるか?」

とりあえず包帯で縛って様子を。

「苦しい」

「しょうがないだろ」

はぁ、と熱い息を吐いていくらか虚ろになった目が下を向いた。

「スミス、覚えてろ」

後ろでひぃひぃ言ってた男はどうやらスミスだったらしい。

「心配すんな、タルバート
こいつの銃剣の腕が最悪だったから助かったんだぞ」

ジョーがタルバートの肩を持ってくれた。

「救護所だ」

「ぉう」









「もしかしたら、死ぬかもって、思った」

こつ、と肩にジョーが寄りかかってきた。
煙草を銜えて弱々しく煙を吐く。

「元気だったじゃないか、」

実際あんなに喚いてた。

「だけど、…」

座ってた木に煙草を潰して珍しくジョーからキスが。

「なぁ、俺が怪我しても走ってきてくれる?」

そんな目で見るなよ。

珍しく感情突っ走って思いきり抱きしめた。

「ジーン?」

風が吹き抜ける音がして、一瞬冷静になった。

「怪我なんてさせない」

「くさ、」

戦争の中で忘れかけていたジョーの匂い、体温。

頭の中は珍しく溜まった欲望吐き出したい気持ちでいっぱいだった。

「もう少ししたら、イギリスに帰れるかな」

僕が帰りたいのはアメリカだけど、

「もう少ししたらね」

小さな子供を相手に喋っている感じがした。


「ねぇジーン」

「ん?」

首に手が回ってくる。
ジョーが僕を誘う時はいつもそうだ。

「俺戦争が終わったら、ジーンの嫁になる」

プロポ-ズされた。

「いいけどその時になったら僕に言わせてくれ」

「嫁になれって?」

「ああ、」

首筋に跡を残したら恥ずかしそうに体を捩って体を離した。

「早く結婚したい」

「だったら早くヒトラーの首をアメリカに持って帰らないと」

深くキスをして、今が戦争中だなんて事完全に忘れてた。

「好き」

もしもお前が負傷しても、僕は走ってきたりなんかしない。

いつも『Medic』と、
自分を呼んでいるのはお前じゃないって信じてる。

「約束してくれ」

「生きて帰ること?」

「僕の名前を呼ばないこと」

優しく笑ったジョーは「分かってる」と頷いて再び僕に抱きついた。

「信じてる」

「俺を誰だと思ってんだ」

「僕の婚約者だろ?」

月が雲と仲良くなって辺りが少しだけ暗く、黒く。

「帰ろう、」

自分のタコツボに、
イギリスに、
アメリカに、

「絶対、一緒にな」

少年のように明るく笑う。
僕がこの戦争の中でその笑顔に救われることはこれからいくつもあるだろう。

「ばいばい」

「また明日」

戦争だって、思った。
「ばいばい」が、とても重かった。



帰ったらなんて言われるだろう。

今までどこ行ってたんだ、
衛生兵だろ、
戦争中に呑気にいちゃつくな、


うるせー





帰ろう、

タコツボ
イギリス
アメリカ

ジョーがいる場所に。






END
 

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