映画

□我が侭な貴方の傍で
1ページ/1ページ

暗闇の中。
ベッドの上に一人横たわる彼女に、小さく声を掛けた。

「雪平さん」

返答は無し。
もちろんわかっていた事だったけれど、毎度の事に溜息が零れた。
今は重要な事件を追っている最中だというのに。
そりゃ、全然寝てないから疲れているのもわかるけど…

起きない所か寝返りを打って見せた彼女の頬を、今度は軽く叩いてやった。
今は、自分も同じ状況なのだ。
極度なまでの遅寝早起き。
同情などしていられない。

「ゆーきーひーら…ガフッ!!!」
「呼び捨てにするな」
「ンな理不尽な…」

別に呼び捨てにしようとしたわけではなかった。
それなのに蹴りをくらわなきゃいけないのは……これまたいつものこと。
まぁ、今回はちゃんと起きてくれたので許す事にしよう。

ゆっくりと面倒くさそうに起き上がった彼女は、僕を一瞥してから盛大な溜息を一つ零した。

「安藤。言ったでしょ、あたしを起こすときは目覚まし時計で」
「起きないンすもん」
「おきる」
「おきません」
「あたしが起きるっていうんだからおきるの。わかったら返事」
「……、はい」

いつもと同じ態度に呆れながらも、俺は床に散らばっている雑誌を手でのけながら台所へと向かった。
少し薄汚れたコップに水道水を入れて、同じ道を戻り。
雪平さんに渡す。

「ありがと」
「いえ」
「で?今度は何」
「今度はっつか…今回追ってる事件の事ですよ」
「あー…」

其れをゴクリと飲み干したかと思ったら、今度は後ろ髪をガシガシと掻きはじめた。
まったく、此の人からは女というものが微塵も感じられない。
こんな目の前に、半裸で。しかも無駄に美人な人が無防備で寝ているというのに。
襲う気にすらなれないのだから。

襲ったら襲ったで後の仕返しが怖いというのもあるのだろうけど。

ていうか恐らくそれが半分以上。

「安藤」
「はい?」
「あたし今から寝るから。其れやっといて」
「はい……ってぇええ!?」
「男に二言は無い。はい御休み」
「え、ちょっ…!!!!」

反論する間もなく。
彼女はもう一度眠りに落ちてしまった。

ありえない。
何で此の人はこんなに自分勝手なんだ…??
怒られるのは俺なのに!!!

絶望と同時に殺意さえも芽生えてくる此の感情に押しつぶされそうになりながら、雪平さんの方を見た刹那―――――…
既に寝入っていた筈の彼女の指が、雑誌で埋もれたテーブルを指差していた。

「え?」

先を辿れば、其処には山のように積み上げられた雑誌にまぎれて、一枚の紙切れが置いてあった。
訳が分からずとりあえず其れを拾い上げる。
字が大量に綴られている其れを見れば、其処にはある一人の人物名が書いてあった。

「これ、って…」

今まで捜査してきた中で、一回も出てこなかった名前。
被害者の名前でもなければ。
関係者の名前でもない。

つまりは…

「犯人の名前…?」
「それで怒られないで済むでしょ。今のは寝言」
「え、でも…」
「わかったら…返事」
「は、はいっ」

何が寝言だ。
ちゃんと意識あるじゃないか。

心の奥底。
湧き上がる感情に身を委ねたくなるのを必死に堪えて、紙切れを握り締めた。

「ありがとうございます!」

いつになく丁寧に一礼をして、向かった。
大急ぎで彼女の部屋を出て警視庁へと。






外に出れば、突き抜けるような寒さが体を抜ける。
今すぐ家に帰って寝たいのを堪えて、走った。

あの人だって頑張ってるんだ。
俺は、あの人相棒なんだ。
俺はあの人の事が……






彼女に貰った紙切れを握り締めて、必死に走り続けた。




(いつだってアンフェアな彼女が、俺は…、)
END

*************
初アンフェア。
安藤→雪平です!!


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ