映画

□片思いにも似た感情の中で、
1ページ/1ページ

ざーざーと降りしきる雨の下。
捜査も無事終わり、今日は久々に寝れると少し楽な気持ちで家に向かっていた。

鞄からもう何時間と使っていなかった鍵を出す。
家までもう少しだ。
と、右手で持っていた傘を肩に掛け、小走りで家の傍の角を曲がったときだった。

立っていたのだ。
今回も一緒に、それこそ何日間もお互いを見張るかのように傍にいた彼女が。
真っ黒な空を見上げ、
雨に濡れたまま。

「あ…」
「…安藤」
「何やってるんスか、雪平さん」

傘も差さずにボーっと突っ立っている彼女の名を呼ぶ。
雨で濡れた綺麗な黒髪が頬に掛かっていて、思わず其の光景に見とれてしまった。

そんな自分に自分で喝を入れて、彼女の傍に駆け寄る。
今自分は寝ぼけているんだ。
だから雪平さんに見とれるなんて、ありえない。
ていうかあってほしくない。
等と、勝手に言い訳をして。

「つかなんで俺の家知って…」
「薫ちゃんに聞いた」
「あの人…っ」
「ねえ」
「はい?」

心の奥底で三上さんを恨みながら、彼女の呼びかけに応える。
すると、らしくなくも。
くい、と黒コートの裾を引っ張ってきた。

「え、」
「入るんでしょ」
「は、はい?」
「家。安藤の、家」
「入るつか…俺の家ですし」
「入れて」
「はぁ!?」
「四の五の言わない」
「で、でも!!!俺今疲れてるしそれに雪平さんみたいな美人いれて俺がもつかどうか…」
「馬鹿かお前は」

自分でも訳のわからない言い訳をほざいてるな、と思いながら必死に説得を試みている自分がいて。
そんな俺を関係無しに、持っていた鍵を奪い取って部屋番号を聞いてくる雪平さん。

て、いうか。
ホント俺今、凄く変な事言った気がする…

今しがた零した自分の発言に溜息を吐きながら、頭を掻いた。
雪平さんはというと、もう既に俺の部屋に向かっている。
鍵穴に鍵をこじ入れて、入んないじゃないなどとぶつぶつ呟いていた。
まったく、ほんっとに此の人は…

「逆ですよ雪平さん、こうです」
「あー、ホントだ」
「ホントだ、って…つかそのままうちあがる気ですか!?」
「何よ、ああ、お邪魔しまーす」
「そうじゃなくてっ!!!」

体中びしょ濡れのまま人ン家に入る気ですか、あんたは。
靴を脱ぎ捨てて奥に入ろうとする彼女を引き止めて、大急ぎで風呂場に行き。
でかいバスタオルを鷲掴みでとって、彼女に渡した。

こんな気遣いするくらいなら、捜査中にもっと役に立て。なんていわれたけど、そんなの聞かないフリ。

大体、なんで貴方はこんな時間にこんな大雨の日に家の前で突っ立ってたんですか…

「あの」
「何」
「何で俺のとこに?」
「…入れてくれると思ったから」

嘘だ。
一瞬でわかった。
―――何でそんなすぐばれる嘘つくんですか。
もうどれくらい、一緒にいると思ってるんですか。

これ見よがしに溜息を零して、雪平さんの腕を掴んで部屋の奥に連れて行った。
其の間も抵抗することなく、素直についてくる彼女。
何かがおかしかった。

そのままソファに無理やり座らせて、自分もコートを脱ぎながら座らせる。
雪平さんは、ずっと遠くを見つめたままだった。

「雪平さん」
「…何」
「本当の理由を教えて下さい」
「疲れたの」
「は?」
「疲れて、休みたかったの。安藤の家で」

これも、嘘。

色んな意味で押し倒してやりたくなったのを必死で堪えて、彼女の両肩を掴んでこちらを向かせた。

「嘘つかないでくださいよ」
「嘘じゃない」
「嘘です」

こっちを向かせても、視線は何処か遠くを見つめていて。
魂が抜けたみたいな表情をしていた。

気に食わない。
俺には、何も言えないっていうんですか。
あいつには、
瀬崎には何でも相談するくせに。
あいつには、笑いかけるのに。

「雪平さん!!!」

そう思ったら唐突に苛々してきて、気づいたら彼女の顔ごと無理やり自分の方に向けさせていた。

「何」
「貴方がいけないんですよ」
「何が」
「俺が…どんな気持ちで今まで…」

心配してただけだったのに。
いつだって思うのは、貴方の安全だけだったのに。
それなのに、なんで……

今は、違うんだろう。

「んっ、」

気がつけば。
俺は彼女の柔らかい其れに、自身の唇を落としていた。
滑稽だ。
ばかばかしい。
なんで部下が上司に、こんな事…

「安藤…っ」
「雪平、さ…」

だって。
唐突に苛々したのだ。
彼女が瀬崎の事だけを考えていると思うと。
俺には見せない其の笑顔で笑いかけてると思うと。

どうしようもなく、悲しくて。
悔しくて、苦しくて。
一人取り残されたみたいになって









泣きたかった。










「やめて…、安藤っ」
「っ…」
「安、藤…っ、安藤!!!!」

パンッ!!!!!

乾いた音がしたと思ったら。
頬には鋭い痛みが走っていた。
はたかれた。
彼女に。
雪平さんに。

俺が、

キスをしたから…?


「っ、ご、ごめんなさ…」
「はぁ、はぁっ…馬鹿かお前は」
「…俺、今雪平さんに…っ」

我に返ってからは、目の前がすぐに真っ暗になった。

「あたしがいけなかった、ごめん。あんたを利用するような事」
「……」
「瀬崎さんにね、ふられたの」
「…え…、」
「寂しくなっちゃって。だから、安東なら優しくしてくれるかなって…」

暗闇の中で、ぽつり、と彼女が漏らした本音。
涙で濡れた頬を拭ってから、雪平さんに向き直った。

つまり俺の家にきたのは、
俺なら雪平さんを悲しませる事をしないと思ったから…?

「やっぱり帰る」
「え…」
「瀬崎さんのとこに行く。いつまでもいる訳には行かないし」
「あ、雪、平さん!?」
「何」

床に放り投げてあった鞄を肩に掛けて此処を出て行こうとする彼女を、呼び止めた。
何が言いたかったかなんてしらないけど。
行ってほしくなくて。
此処から出て行ってほしくなくて。
あの人のところに行ってほしくなくて。

俺を、置いていかないでほしくて


「行かないで、ください…」
「……」
「俺、何でもしますから。だから…!!」


すると、彼女は優しく微笑んでから、言った。


「馬鹿かお前は。いつからそんなに冗談がうまくなったの。…じゃあね、おやすみ。ありがとう」


馬鹿じゃないですよ。

心の中で反論しても、其れは届かないで終わった。
ゆっくりと玄関に向かう彼女。
そのまま外に出て行き、此の空間から姿を消した。

胸の奥に、ぽっかりと。
大きな穴が開いて、虚無感が流れ込んでくる。



わかっていたことだけど。



自分に言い聞かせて、ソファの上に顔を乗せて泣いた。










(雨が自分の心模様を表しているみたいで、気に食わなかった)
END

*************
安藤→雪平→瀬崎
というのが凄く好き。
ていうか無駄に長くて意味わかんなくてすみません…


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ