colore

□【colore】第71話〜第105話
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『いらっしゃいませー
あ、結子〜久しぶり』


Bar.canonに響き渡る陽気な声
みちるは約2週間振りに日本に戻っていた





【第72話】





「みちる、久しぶり!どうだった?イタリアは」

結子はカウンターに肘を掛け、みちるを覗き込むように見た

スラリと延びた、健康的に焼けた肌
この夏、大きな大会を控えている結子は、毎日欠かさず陸上の練習に明け暮れていた


『ん、懐かしかったよ
何も変わってなくて…ホッとした』


何も知らない結子にだからこそ言える言葉も、出せる感情もある

みちるの脳裏に、優しく微笑む悠成が過ぎった


カウンターで豆を挽くフェルッチオは、それに少し安心した


昨日、夕方頃帰国したみちるは、見た目どこも変わりなかった

いつも通り軽やかに、ふわふわと髪を揺らし、お土産を差し出すみちるに、フェルッチオの胸は少し痛んだ

みちるとの付き合いは8年になる

元々人懐っこい性格のみちると、人当たりの良いフェルッチオはすぐに親しくなった

店の上はフェルッチオの住居なのだが、度々泊まる事はあったし、休日遊びに出かける事も珍しくない
周囲から親子に間違えられる程の仲だ


フェルッチオは10年前まではイタリアにいた
当時もカフェを経営しながら、ボンゴレに籍を置き、諜報員として動いていた

悠成は友人でもあり、店の常連でもあった


みちるの事は悠成から聞かされており、アンミッコとしての噂も耳に入っていた

日本で対面した時、あまりにも普通の少女に驚いた

そして悠成の死に…言葉がなかった


みちるが悠成の話しをする事は殆どなく、マフィアや裏の世界の事も、この8年で数えるくらいしかない

みちるは隠し事が上手い

悠成の命日には、人知れず涙を流している事
イタリアの天気をついチェックしてしまう事
未だにマフィアに狙われ、悠成の名に動揺している事

フェルッチオは分かっていた

だが、事情を知るフェルッチオに、みちるは同情を恐れているのか…何も言わない


察する事は出来るが、本当はどんな事を考え、その小さな背中に背負い込んでいるのか…本当は心配でならなかった


『でね、そこのピザがスッゴク美味しいんだ〜!あ、もちろんここのも絶品だよ?』

いつも以上にくだけた表情に、フェルッチオはどこかホッとしていた






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