コトノハ

□00.
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イタリア。
青々と茂る木々が太陽の光に反射してキラキラと光り木漏れ日が地面を温かく照らしていた。人の気配は全くない奥まったこの森の中は木の葉のこすれる音や小鳥のさえずりしか聞こえない。そんな場所に、ツタに囲まれた怪しい雰囲気を醸し出す大屋敷がひっそりと人知れず建っていた。
しかし足を一歩踏み入れるとがらりと雰囲気がかわる。英国風のアンティークなデザインで統一された屋敷は大きなエントランスとシャンデリアがあり、正面には大きな階段がそびえていた。その階段を上り廊下を奥へ奥へと進んでいくとそこには場違いのセキュリティロックが何重にもかけられた部屋がある。アリ一匹の侵入も許されないその部屋の中で一人の男が声を張り上げていた。


「ボス!!BCの反応がありました!」


ボスと呼ばれたその『幼い少年』はニヤリと口端を上げ、くわえていたキャンディーを取り出し、それをはちみつ入りレモンティーの注がれたカップに投げ入れた。
その少年は齢10歳程度だろう、なのに幼い子供らしい可愛らしさやあどけなさは微塵もなかった。子供らしさといえば極度の甘党というところのみだろうか。漆黒のショートヘア、左は碧く右は黄色い左右色の違った大きめの瞳が色白の肌によく映えている。右目の下には呪印か何かのマークが黒く浮き出ている。一言で言い表せば『美少年』である。


「位置は?」
「ただいま詳しい位置を特定中です」
「デジタルからアナログ式に変えてよかった。大型衛星でも見つからなかったんだ。しらみつぶしだなんて効率の悪い方法はとりたくなかったが…見つかったならいい」
「全国に散らばった探査員に感謝せねばなりませんな」
「もっともだ、ウーノ。彼らの働きがなければこの成功はなかった」


ウーノと呼ばれた男は静かにうなずいた。ウーノとはイタリア語で数字の1を意味する。肩幅胸板ともに大きく背丈は軽く190はあるだろう。シルバーの短髪と口ひげをもち、同じ銀色をしたフレームの眼鏡をかけている。いかにも厳格そうなその大男は少年の座る黒のソファーの隣に従い立っていた。


「特定できました。場所は―――ジャッポーネ、トーキョーです。」
「日本…か。BCの在りかとしては…まぁ納得がいくかな。で、トーキョーのどこ?」
「それが…」
「それが…?」


モニターを眺めながら情報を少年に話す男は渋りながら答えた。


「BCの反応地点は常に移動を続けています。」
「…要するに?」
「人間の…体内に埋め込まれているようです。」


くるくると指先で自分の黒髪を弄んでいた手が止まった。静かに溜息をつき、隣のウーノに目配せをするが彼も目を伏せてしまったためもう一度盛大な溜息がでてしまった。


「予想はしてたけど…確かに動く人間の体内は隠し場所に最もふさわしいかもしれない。野良犬やトリとかの体内でなくてよかっただけマシだと思うようにするよ。映像、映せる?」
「少々お待ちを。」


パッと目の前の大スクリーンに映し出された映像をみて、少年は丸い目をさらに丸くしヒューっと口笛を吹いた。ウーノの眉間には軽く皺がより、瞳が目の前の現実を憐れんでいた。


「可愛い娘…だね。水兵の格好してる…ジャッポーネの制服かな?」
「まさか…こんな娘に。博士はいったい何を考えて「何も考えてないと思うよ。」


少年はウーノの話をピシャリと止めた。


「ただ…BlackCubeを壊す方法が見つからなかったんだ。で、隠さなければいけなくなった。目の前にあったのは絶好の容れ物だ。使わない理由がない。こんな…少女だったとしても、その少女が自分の娘だったとしても…ね」
「セッテントゥリオーネ(イタリア語で北の意)は気づいて?」
「来週の会合で奴らのボスに探りをいれる。ま、気づいてようが気づいてなかろうが…我々メリディオーネ(イタリア語で南の意)が必ず阻止し…この娘を傷つけずして破壊する術を探す。奴らの手には渡さない。僕は世界が黒に染まるのをもう見たくないんだ。」
「マフィアのボスからそのようなお言葉がでるとは…」
「らしくないかい?」
「いえ、我らのボスらしい」


ニヤッと口端を上げる少年に幼さはやはり見られないが、やっと年相応な笑顔がうかんだように見えた。琥珀色のレモンティーに浸かったキャンディーを再び口に含み直した少年は指をひとつ鳴らした。パチンと乾いた音が室内に響く。


「otto(オット),nove(ノーヴェ),dieci(ディエチ)を呼べ」
「了解」

左から数字の8、9、10を意味する。

イタリアのマフィアは今や北と南に分裂し数々のマフィアはどちらかに属するようになっている。
そしてこの小さな少年がボスを務める南、メリディオーネファミリーはボス直下に10人の信頼できる部下を置いている。実質ファミリーのTOP10というわけである。
そしてこの10人たちは一人ずつ名前とは別にコード番号を付けられ、ボスは名前ではなくこのコード名を愛称のように使うのである。


スクリーン右に表記されてある1〜10の数字のうち8、9、10が赤く点滅し3人の顔がスクリーンに映し出された。

ottoの文字の上には似合わないスーツをびしっと着た日本人の少年17歳。顔は厳しく硬い黒髪を持ち左目下には古傷が痛々しく残っていた。磨いていた銃器、刀を机におきこちらに対して敬礼をした。誰が見ても頑固で真面目そうな青年である。。

noveの文字の上には金色のウェーブがかったブロンドヘアをもった20代のアメリカ系女性が写しだされこちらに気づくと手をひらひらと振って見せた。どうやらパック中だったらしく美しいはずの顔は化け物じみていた。ウーノはゴホンと咳払いをしたが彼女は気にもしていない様子である。

最後dieciの文字の上には大口を開けて爆睡している色男がいた。色素の薄いふわふわの髪を持った男で後ろで少し長い髪をひと束にしている。メガネは半分ずり落ちていた。


「いいのですかボス、これで、こんな…」
「これでいいんだよ。ほんと、僕の部下は面白い。退屈しなくてすむね。ディエチ、起きられるかい?」
「む…にゃ…ぁ、ボス、これは失礼。寝ちまったみてーだ。」
「いや構わないよ。昨日のミッションは骨が折れただろうから。」
「いやいやあのくらい楽勝s「ボス、ご用件は…」俺の話を遮るな!!」
「あぁ悪かったねオット。ディエチもそう怒らないでくれ。君たち、ミッションだ。10分後この部屋で落ち合えるかい?」
「「「Si!」」」


スクリーン右の8〜10の数字が元の灰色に戻り画面は先ほどの女子に戻った。


「ふふっ…楽しみだな。」
「ボス。」
「分かってるウーノ。そう怒るな…僕はいつだって真面目だしそれなりに頭だって使ってるつもりだ。そうだろう?」
「はい。」
「ウーノは頭硬いな。甘いもの食べると脳がよく働く。一つどう?」


ポケットからボスの口内に入っているキャンディーと色違いのものが出てきた。ウーノは丁重に断った、が、ボスはぶーっとふくれっ面を見せそのキャンディは無理やりウーノの口に詰め込まれた。

捨てるとボスがもっと不機嫌になると直感で思ったウーノは渋々食べ続けたが後にやってくる部下に思いっきり笑われるという運命を知っていたならどんな手を使っていても吐き出していればよかったと思わずにはいられなかった。






00. Prologue

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