Dream2

□人魚姫
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海の中は静寂に包まれていた。


時折水面へ浮き上がっていく気泡に合わせゴポリと聞こえるのは、自分が空気を吐き出す音。


今は初春だから飛び魚の跳ねるような季節でもない。


故にほぼ無音状態の海中で、いつものように私は散歩に出ていた。


いや、『歩』という語はふさわしくない。


私の下半身は人間のような二本足ではなく、鮮やかな鱗に覆われ尾ヒレのついたそれなのだから。


人は私を

『人魚』と呼ぶ。








人魚姫









人魚――天人として地球に移り住んだ種の一つ。


一日に一度空気を吸いに海面に上る以外、人魚は普段は滅多に人前に姿を現さない。


海の奥深く、ひっそりと生活しているのだ。



「これは…」



ふと海底に突き刺さる見慣れないものに気付く。泳ぎ近付けば、それは武士の魂とも呼ばれる、一本の刀であった。


よく研ぎ澄まされてはいたようだが海水に晒されていたとなればもう使い物にはならないだろう。


問題は、この平和な海底になぜこんな異質な凶器が落ちているかということ。


水面を見上げる。


ぼんやり差し込む日光を遮る浮遊物は、もとは飛空船の一部だったであろう木片や金属部品。


昨夜のひどい嵐でどこかの飛空船が破損し墜落したのだろう。



(…あれは…?)



不意に目に入った暗い「赤」に私は目を凝らした。


海にも瓦礫にも似付かわしくない色。

血ではない。
木片の合間をゆっくり漂っている。


それが「ヒト」の纏う着物だと理解するのには幾分か時間を要した。



(…大変!)



助けなくちゃ。


そう思うが早いか、私は海面へと泳ぎ上がっていった。




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