□至福(さち)のしらべ
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「くろう…」


「なんだ?」


「呼んだだけです。」


寒い日でも暖かな陽射しが濡れ縁をぽかぽかにして。


外套を外して蜜色の髪に太陽の光をふんだんに浴びさせる。


お互いの体温を感じながら背中を合わせて座って。


無言無音でも、鳥たちの奏でる音色が耳に届く。


穏やかに時が過ぎていくのが分かる。


「…くろう。」


「…なんだ?」


「ずっと、このままで一緒に居たいなんて思いませんか?」


あまりにも心地良いから緩やかに睡魔が襲う。


幸せなひとときではないだろうか。


戦もない、平和で暮らせるような、そんな錯覚。


「そうだな。それに弁慶がいれば俺は…」


「なんです?最後まで聞きたいな。」


きっと、照れ屋な彼は顔を真っ赤にしてる。


だからちょっといじわるしてみたかった。


くすくすとおかしそうに笑って、続きを促して。


「っ、弁慶がいればそれでいい…」


嬉しい。


そう考えてくれるは、心が綺麗で優しい君。


「僕もですよ。九郎がいなかったら、今の僕はきっと存在してませんから。」


太陽は月を照らす、まるで僕らのよう。


左右に広げて置いてた、片方の手で九郎の手を


きゅっと


優しく包み込むように握る。


「…べんけい…」


名前を呼ばれ心がくすぐったい。


握り返してくれる手があったかくて。


頭をコテン、と後頭部にくっつけた。


自由奔放に跳ねる毛先が首筋に当たって、やっぱりくすぐったい。


「好きですよ、くろう…愛してます…」


蜜事の時みたいな声で告げると、ぴくっと九郎の身体が小さく揺れる。


溢れる思い。


流れる時に身を任せて。


誰よりも大事な人に伝える。


「しっ、知ってる…俺も、同じだからな!!」


ぶっきらぼうな所も、照れてしまう所も、好き。


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