□正邪者の先に
1ページ/2ページ





戦に負けた平家。
生き延びた者が彼と共に南国へと辿り着いてから、幾度月が沈み太陽が昇ったのか…



「知盛お前、いい加減にしろよ!」

「クッ……“兄上”はよほど頭が固いと見える…」

平和とは縁遠いながら、平家一門の皆の表情は晴れ晴れとしている。

還内府…異世界からきたという、有川将臣という人物のお陰だ。

「知盛殿と将臣殿は大変仲が宜しいですね。」

「兄弟で仲がいいことは良かろう。重盛がおれば、我が一門も安泰よ。」

小さな屋敷の外で、知盛と将臣は未だ懲りず。

そんな様子を、清盛と経正はのほほんとしながらその光景を眺めていた。

「だから、なんで普通に抜かねぇんだよ!?」

「…有川がただ、抜けと言ったからだろう?」

埒があかない。
元より、彼とまともに話合うと生温い展開になるのはもう分かり切っているのだから。

「っ…けど、俺は早く抜けとは言ったぜ。」

「激しい奴だな…」

「知盛……一回、しっかりと抜いてこい。」

終わりの見えない会話。

ゆったりとした口調に、嘲るような笑みが将臣の神経を逆撫でてゆく。

「それは、有川のことだろう?」

何を言っても無駄だと思いつつ、惚れた弱みもあってか苦々しい溜め息が口唇から零れ。

「だから、なんで俺が雑草引っこ抜かねえといけないんだよ?お前の分はしっかりやれって。」

愛情を込めて作った野菜の近くに生えた、小さな小さな草。

「…俺の相手は、お前だけだと毎夜言っているはずだが…」

溜め息が将臣の耳朶を擽り。

いつの間にか距離を縮められ、逞しい腕が将臣の腰を捉えていた。

「知盛、離せ。」

「嫌だ、と言ったら?」

睦言のように囁く言の葉は、妖しい熱を生み出す。

紫色の瞳が、藍の両の瞳をそれぞれ絡めとり、思考が奪われていくような錯覚に陥り。

「っ…ん、ん…はっ、ふ…んぅっ…はぁ…」

柔らかく、肉厚な口唇が将臣のそれを塞ぐ。

甘い毒が身体中の力を奪い、思考回路が容易く遮断された。

息を乱したまま、微かな喘ぎの中で小さく呻く。

「ば、か…」

「…将臣…今宵も、お相手願おう。」

妖しい声が耳朶の側で渦を巻き、頬に将臣の掌がしっかりと掠めた。








次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ