□重なる陽炎
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和議が、源氏の神子の策によって結ばれた。多少強引とも取れる荒技にも関わらず、だ。

乱世の中でも、一時の平和を手に入れることが出来た。



天から、燦々と陽が地上へ降り注ぐ。

「望美さんたちを見届けて、相見えることがないと思っていた源氏と平氏…そして奥州までも。」

曇りのない空には、ふわりふわりと気持ち良さそうな雲が、線を引いたように流れ。

「望美さんは、やはり凄い方でしたね。」

弁慶はほうっ、と肺に溜まっていた息を空へ吐き出した。

「…そして、私を貴方様の元へ導いて下さった偉大なお方です。」

「し、銀殿っ!?」

突然背後から声が掛かり、いつしか聞いたことがあると思い振り返った時。

激闘を繰り広げた地で、逢瀬した泰衡の従者である銀が、澄んだ笑みを浮かべながら颯爽と佇んでいた。

「弁慶様、こちらにお出ででしたか。」

にこりとはにかむ様は、女性を虜にするような憂う妖しい微笑み。

「どうして、此方へ?」

「我が主、泰衡様のご用事にて、九郎様に会いに単身で参りました。」

「そう、ですか。九郎でしたら、恐らく六条の堀川に…」

弁慶の心の臓は、嫌なくらい速くドクドクと脈打ち続ける中、二人の距離が少しずつ縮まっていく。

弁慶のすぐ側で立ち止まり、銀の腕が身体に回るころにはもう早鐘の如く鳴る鼓動。

紡ぐ言葉さえ、息苦しいくらいに。

「九郎様の所には、もう参りました。用事も済みました故、弁慶様の元へ参上致しました次第です。」

「そうですか。ですが…何故、僕を抱き締めるんですか?」

気がつくと、耳朶の側で銀の呼吸が聞こえ、胸元へ抱き寄せられていた。

「私は、弁慶様が愛しいのです。女人に抱くような思いで、貴方様を考えるだけで胸が苦しくなるのです。」

弁慶は息を呑み目を見張った。

紡ぐ言葉を失い、ただ呆然と銀の紫色の瞳を見つめ。

「…銀殿、嘘は…」

「嘘ではございません。毎夜、貴方様をお慕いしておりました。」

純粋で汚れを知らない銀の言葉は、弁慶の心を抉っていく。

声が、心の奥深くが震えた。

「しかし、僕も銀も立派な成人男性ですよ?」

「慕い愛情を持つことに、性別は関係ないと私は思います。」

頭を抱えたくなる。

こてん、と胸板に頭を預け、落ち着くために深呼吸を繰り返す。

僅かに、銀の腕に力が加わったのを感じ取る。

「…あのお方は…」


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