証
□かける、はやさ
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ドタバタ
ドタバタ
忙しない足音が、濡れ縁を幾度も往復していた。
「あんた、体力ないよね。あぁ、閨の時は別だっけ。」
「っ、待ちなさい!ヒノエ!」
宇治川にて会い見え、京を守らんと現れし龍神の神子を守る四神の一つ、天地朱雀の二人の声が梶原邸内に木霊する。
時折、太陽に反射しキラキラと輝く蜂蜜色を持つ青年は、手に携えている己の武器を一刀両断の勢いで横に薙ぎ払う。
切っ先は獲物を掠めることなく、虚しく空を切るが…。
25歳と17歳の追いかけっこ。
叔父と甥の関係。
そして、男と男の関係。
つまり、血縁関係であり男同士である、恋人たちの痴話喧嘩。
ぴたりと見事なまでに足が止まり、手先まで瞬時に固まり。
ぼんっ、と音が鳴りそうなくらい、弁慶の顔に変化が現れた。
湯気を立てんが如く、耳朶まで赤く染め上げる。
普段から冷静沈着な弁慶の、弁慶らしくない変化に、一足先を進んでいたヒノエは立ち止まり遠目でその姿を見つめ。
「あんたさ、ホントにオレより年、上だよな?」
見飽きない、初々しい反応。眩い紅髪を持つヒノエは訝しむ反面、分かりやすい反応を示す叔父で楽しんでいた。
一秒足りとも動かない、見事なまでの硬直具合は微かな苦笑を誘うほど。
「綺麗な造形だよ…昔から。」
溜め息に似た、小さな呟き。遠からずも幼き頃の思い出に馳せた。