□至福(さち)のしらべ
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「くろうの顔が見たいな。」


もう幾刻が過ぎたか分からない。


それほど平和。


身体を捻って顔を覗き込むと、案の定真っ赤に染まってる。


おかしくて。


でも可愛らしくて。


いつまでも笑ってたら






……ちゅっ






口唇を柔らかく塞がれた。


「それ以上笑うなっ。」


「ごめんなさい。」


それでも目許が笑っていて、九郎は不満げに拗ねてしまう。


けれど離れないところで、素直だと思う。





絡めた指を悪戯に戯れさせて。


「ねぇ、くろう?らべんだぁ、という花の花言葉を知ってますか?」


「らべ、…だ?」


知らない言葉に、きょとんとした表情がまた一層愛らしい。


だからそんな奥手な君には、この花言葉を贈ります。


「“あなたを待っています”」


口付け止まりの君へ、捧げる言葉。





不純な僕を許してくれますか?




花の褥で君の熱を感じたくて。


贈る言葉。


「それは一体なんだ?」


「ふふ、それは秘密です。またいつか教えてあげますよ。」


背後からそっと抱き締めて、耳朶で甘く甘く囁いた。


密着したところから、身体の芯まで暖まる気がした。


「くろう…」


「…べん、けい…」


正面を向いて抱き合うと、視線が絡み合って再び口唇が重なる。


蜜事を紡ぐ言葉を封じるように。


いつかは甘い恋仲同士になれたらいい。


暖かかった陽の空も、知らずのうちに、宵闇の影帳(とばり)を落としていた。




甘えることで生まれる思いや絆。


こんな些細な幸せでも、ずっと続けばいい。


愛しい君と。



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