証
□君と夏祭り
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「それ以上笑うと落とすぞ。」
「はいはい、僕の所為ですからあまり拗ねないで下さいね?」
年下の恋人は子供のようにそっぽを向く。そんな行動にさえ愛しいと思いながら、弁慶は漸く己の体を起こしてソファにちゃんと座った。
此方を向こうとしない九郎の頬にそっと手を添え、甘いムードを醸し出す。
「九郎、お願いですから……僕の方を見てください。」
ベッドでセックスをする時のように、耳を悪戯に擽ってくる蟲惑的な声。
抱かずにはいられない、甘い衝撃を奔らせる小悪魔的な誘惑の声。
逆らえない―…
「…その声は卑怯だ。俺が逆らえないことを知っている癖に…お前という奴は。」
ムスッとした声音、ゆっくりと振り返る姿は、飼い主に叱られてしょぼくれた犬のよう。
「だからですよ。ですが、九郎もいけないんですよ。」
人差し指を九郎の口唇にあてて優しく微笑み掛ける。
唇を塞がれ、敵わないと悟る。深く溜息を吐き出した。
「それで、お返事は? 一緒に行ってくれるのでしょう?」
NOと言わせない、絶対な支配力。もとより断るつもりも無い。
「時間は何時からだ?」
態度ではなく、しっかりとした言の葉でYESと答える。
「確か…18時30分くらいだと記憶してますが。」
絡み合う視線は壁に掛けられた時計へと移る。
「まだ余裕はあるな。」
「でしたら君はこのままで構いませんね。僕はちょっと支度がありますから、絶対に寝室へは入らないようにお願いしますよ。」
ふふっ、と妖しく微笑う。唖然とする九郎に念の為と言わんばかりに念を押す。
ソファから立ち上がると、リズムカルにリビングから出て行く。九郎は身の置き所がなく、ただソファに座って時が満つるのを待つのみだった。