証
□離れないで、彼の想い
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冷房が効いたリビングのソファに座りながら、九郎は新聞紙を広げ活字を追っていた。
「九郎、麦茶を淹れましたよ。」
カランと涼やかな氷の滑る音と、コーヒーテーブルに置くガラスのコトンと擦れ合う音色が奏でられて。
「ん?あぁ、ありがとう。そこに置いてくれ。」
声は返るものの、九郎は顔を上げようとはしなかった。
ただひたすら、今の、この時空の広い世界のことを学ぼうとしている。
その背中を眺めるのが、僕は好き。
「ふふっ。今日は、どのようなことが載っているんですか?」
真剣な姿を邪魔しないよう、そっと背凭れに両手を着いて背後から紙面を覗き込む。
…字が小さくて、目が悪い僕には全く読めないけれど。
それでも九郎は答えをくれた。
「川柳や、地域のできごととか嫌な事件…あとは様々な紹介か。」
「九郎…楽しそうですね。」
「あぁ、読めない漢字やら英文?とやらが読めるようになれば、この世界をより理解しやすいからな。」
漸く顔を上げ橙色の瞳が此方に向けば、太陽のように眩しく、キラキラと輝いている。
不意打ちで胸が高鳴ったなんて、言ってあげませんからね。
でも、僕の知っている彼ではないように思えて少し寂しいと心が訴え始めていた。