□陰陽、分かたれた偏愛
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懐かしいあの頃。
加速する感情は募りに積もり、黒い感情が湧き上がる。

今も尚、変わらぬ想い。
褪せぬ、恋心。
加速し続ける、深い闇の歪み。

「兄様、明日は暇ですか?」

「明日?明日は…確か休みだったね。どっか行きたいのかい?」

「映画館とか食事とか。僕、色々と計画を立てているんですよ。」

断わる、理由なんてない。
親よりも愛しい存在からのお誘いだ。一言で事足りる。

「いいよ。時間は?」

「時間は二人で決めようと思ってましたから。」

頭脳はいいのに、時々見せる不安げな眼差し。
揺らぐ琥珀色の瞳。
窺うような怯えた表情や仕草は、愛という感情を縛り付ける。
揺れる頭につられ、光に当たれば眩しい蜂蜜色の長い髪が、キラキラさらさらと波打つ。

「おいで。特別に、オレの膝を提供するぜ。」

甘い言葉を囁けば、陶器のように、覗く全ての白い肌へと桃色が淡く挿す。

赤く染まった頬に手を添え、線をなぞるために少しずつ指先を滑らせていく。

互いの体重でギシッと鈍い軋みが、ベッドから聞こえ。

弁慶は逆らいもせず、体をゆっくりと傾けヒノエの膝に頭を預けて、どこか照れくさげにはにかみ返してきた。

「退屈はさせないから。」

「っ、はい…。ヒノエ、兄様…」

「で、どうするんだい?」

「午前中は、兄様の部屋で過ごして午後から出掛けたいなって。」

「そう。なら、今夜は閨を共にするかい?」

「兄様っ!!冗談は…」

慌てる素振りに、片手で制する。
緩く左右へ頭を揺るがして、真面目くさった視線を眼鏡越しから注ぐ。

「オレは、いつだって本気だよ。特に、あんたのことになるとね。」

「ひ、ノエ…」

好き、では片付けられない感情。

擦り寄ってくる存在が、手放せない。

地上を明るく照らす、月の満ち欠けはまるで馳せる心のよう。




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