証
□陰陽、分かたれた偏愛
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約束をした翌日、空は快晴だった。
多少の雲が浮かんでいるのはご愛嬌かもしれない。
結局、昨夜は温もりを一緒に分けながら眠った。寄り添って、互いの存在を幾度も確認し合う、近しい距離。
「ヒノエ、お願いですから色目を使わないで下さい。」
二人で街中を歩けば、過ぎ去り交差する男女共から視線の嵐を浴びる。
燃えるように紅い色を持つ男に、まるで女人のように眩しいくらいに輝く蜂蜜色の髪を持つ人。
仲睦まじく、二人の手が絡まり合ってはほどける指の暖かく妖しげな綾取り。指が深く、深くぎゅっ、と絡まる。
「オレの所為じゃないね。家系だろ?」
「もう…どうしてそう捻くれるんですか。」
「酷いな。本当のことなんだから、仕方ないじゃん。」
心に焼き付けて止まない、紅色の瞳が薄化粧を施しているような弁慶の表情を見つめ。
繋いだままの手を己の口元へ近づけ、羽根が舞い落ちるかの如く口付ける。
下から見つめられ、弁慶の心臓は高く跳ね五月蝿く響いた。
「ほら、行くぜ。もう少しぶらぶらしてから、映画館に入ろ。」
「はい、ヒノエ兄様。」
「可愛いよ、弁慶。」
「僕は男です。可愛いという言葉は、女性に対して使う物言いですよ。」
思ってはいけない間柄なのに、兄弟だからこそ芽生える禁忌の感情―…。
「それでも、オレには可愛い弟だよ。」
言ってはいけない、一言が口から滑りそうで微かな恐怖に身は慄(おのの)く気がした。