証
□かける、はやさ
2ページ/6ページ
小鳥が囀りを一声上げたとき、スッと、互いの距離を詰めるのはヒノエ。
「いつまで固まってるつもり?」
「…ぁ、っ…すみません…」
僅かな身長差があるため、下から顔を覗き込んだ。
睦言のように囁く。ハッとした様で目前に迫っていた顔をやんわり睨みつけ。
体を急に動かすと筋肉が軽い痙攣を起こし、足をもつれさせヒノエの胸元へドサッとと倒れ込む。
「っ、おっと。源氏の軍師なら、足元もよく見たほうがいいぜ?」
「熊野別当、藤原湛増に言われたくはありませんよ。」
「…その名前出さないでくれる?」
嫌みが滲んだ、皮肉の投げ合い。
「でさ、助けた相手に刃を向けるのは卑怯じゃないかい?」
潜ませていたカタールで、脇腹目掛けて突き刺そうとする薙刀の刃先を数ミリ単位で受け止めた。
「湛増、油断大敵ですよ。」
「食えない叔父だね。嫌いじゃないけど。」
「おやおや。はっきりと嫌い、と言ってくれた方が嬉しいんですが…」
「愛してるよ、弁慶。」
「虫酸が走りますから、止めてくれませんか?」
「嘘だね。」
「その自信家な所は、兄上譲りですね。」
止まらない。
隠された言葉の、本当の想い。
「っ、何を…んっ!は、ぁ…んぅ…はぁ、ひ、のぇ…」
獲物が弾かれ、キンと涼しくもどこか鈍い音を立てて板張りへ落下する。
続くはずだった言の葉は、熱い接吻で飲み込まれ。
腰に回されていた腕に、力を加わえられるのがわかる。
心地よい体温が、顎を捉えた指先から伝わってくる。
甘い甘い吐息が零れ。角度を変え、口唇がぷっくりと赤く腫れるまで、甘噛み貪り尽くす。