証
□掠れゆく真(まこと)
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「弁慶!!」
久方ぶりにみた弁慶を真っ向から見ることはできなかったが、戦が終わり笑顔を見せられた途端、息苦しくなった。
「九郎…君は、僕を見てはくれないんですね。仲間を裏切り、恋仲である君に咎を残してしまったから…」
――パシンッ!
気が付いた時には、九郎の手がジンジンと痺れだしていた。
弁慶は何が起きたのか把握しきれず、打たれ赤く腫れる頬に指を添えた。
「く、ろう……?」
数秒か、あるいは数分か。
風が2人の裾や長い髪をそよがせて。吐息だけの痛々しい沈黙が2人を包む。
「二度と…二度と、俺の前で馬鹿な真似はするな!!」
本気の怒りが、ぶつけられる。
遮那王として、徒党を組んで生きていた時を見ているようで、弁慶の心はきしりと悲鳴を上げた。
大切な人とは、完全に切れない縁にあるのだと、認めざるを得なかった…
「だから、君とは居たくなかった…純粋な君の怒りが怖くて。…ごめんなさい、九郎…」
いくら裏切ろうと、真に想う人の縁‐えにし‐は切れない。
素直になったとき、人は鬼にも人にもなりけり――……
end.
→あとがき