証
□掠れゆく真(まこと)
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幾時が過ぎたのか。九郎には時間感覚がなかった。
源氏の軍師であり、己の大切な“恋仲”の弁慶がいないだけで、世界が色褪せている。
いつからこんなに依存していたのか。
考えるだけで、胸が苦しく締め付けれた。
「…弁慶…べん、けい…」
名を呼べば呼ぶほど、愛しさよりも苦しみが湧き上がる。
己の腕の中からすり抜けてしまった恋人。
「お前は、今をどんなふうに過ごしているんだろうな。」
「九郎、望美達を迎えに行くんだけど、指揮を執ってくれるかい?」
緋色の髪を持つ、熊野水軍の頭領の誘い。それが微かでも甘美に聞えたなど、言える筈もないが。
「ああ、分かった。」
荒ぶ心を宥めながら、最後の戦の場所に舟で向かった。
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