九弁+お子様二人の捏造SSです。
ブログにて上げたものを、あぷしてます。加筆修正はしてません。

大丈夫!てな方はどぞ。
*ブラウザバック推奨



   
























※迷宮を壊し、京へ帰ってきて和議を成した数年後の捏造話です。






人は愛し愛されて次代の子を成す。

幾陽、幾夜を越えて…





ここに、新たな生命がこの世に一つ、誕生した。





シンと静まり返った室内には、苦しげな呼吸と赤ん坊の産声が響いた。

頭が白い靄に包まれ、意識が遠退きそうになりながら己を呼ぶ声に重たい瞼を押し上げる。

「弁慶、大丈夫か?見てみろ、元気な赤ん坊だぞ!」

愛しい人の声が、現実だと教えてくれる。

産まれてきたばかりの我が子は、ぬるま湯で綺麗に清められていた。

清潔な布にくるまれ、産声を聞かせてからはすやすやと眠って。

「数日は安静にしていなさい。食事も少しずつ食べること。それでは私はこれで失礼します。元気な子が産まれて良かったですね。慈しんで、大事に育ててあげて下さい。」

お産を手伝ってくれた人が、新しい命の誕生を心から喜んで屋敷から去っていく。

九郎はその背中が見えなくなるまで、頭を下げ続けた。






いつまでそうしていたか、ハッとした時には慌てて愛しい者たちの元へ早歩きで向かい。

仲間の顔触れを見た途端、張り詰めていた緊張が解れ頬がだらしなく弛む。

「おめでとう、良かったね九郎。」


景時の


朔の


リズヴァーンの


敦盛の


ヒノエの


譲の


そして、かつての龍神の神子、望美の言葉が胸にジワリと染み渡っていった。

「…あぁ。ありがとう。」

生き抜いて良かったと。
仲間がいて良かったと。


最愛の人がいて良かった、と心から思った瞬間だ。


これからも、増えた家族も愛しい者も俺が守ってみせる。






「九郎、茅(かや)の様子を見てきて下さい。」

「分かった。ついでにおしめも替えた方がいいな。」

「そうですね…あ、ほらほら早く。僕は洗濯物を干してますから、何かあれば呼んで下さいね?」

愛娘が泣く声に九郎が急かされ、快く引き受けて濡れ縁から引き返す。

走り出したいのに、赤ん坊を気にして穏やかな足取りになっている九郎に笑みをかみ殺した。

「…すっかり、お父さんになって。茅は父親っ子になるかな。大きくなったら、薙刀を教えましょうか。」

「弁慶、ここにいたんだね〜。勝手に上がってごめんね。」

「お邪魔する。」

「景時、それに敦盛くんも。いらっしゃい。九郎だったら茅の所に…」

言い掛けた矢先、部屋の置くから愛しい人たちが姿を現す。

「物音に気付いたが…景時と敦盛か、良く来たな。」

二人は快く歓迎する。九郎の腕に抱かれている茅は、視線と気配で母親の姿を探し。

「お前の姿が見えないと不安らしい。」

九郎は肩を竦めて庭にいる弁慶を呼ぶ。

そんな様子に、来客は少なからず目を丸くした。

「九郎殿…変わられたのですね。」

「そうか?」

「うん、変わったよ。なんていうか…優しくなったかな。」

娘が弁慶の腕に渡り、一人が座ると促進され床に腰を落ち着かせた。


戦のない、ほのぼのとした日々がとても愛おしく、そして幸が多いことに気づかされる。


これからも、共に生きよう。
大切な者たちと。



































我が子の成長は嬉しくも、胸にぽっかりと穴が空きそうで。


それでも慈しみたい。
何物にも代え難い存在だから。






赤ん坊の泣き声が響く。

ハイハイが出来て、もうすぐ掴まり立ちが出来そうでできない、そんな年頃。

九郎は茅の元に向かった。

「…どうしてヒノエがいるんだ?」

幼子の愛娘を腕に抱えて、あやす従弟に少なからずショックを受けて。

頭を片手で支えて唸る。

「九郎か。弁慶がこっちに来…」

「僕は呼んでませんよ。熊野の火急の用が終わったから、寄っただけでしょう。」


確信めいた言葉とともに、最愛の妻が現れほっと肩から力を抜いた。

「流石。だから、久しぶりに茅姫に会いたくなってね。」

歯の浮きそうな台詞に、九郎と弁慶は揃って溜め息を吐き出す。

「そういや、今度祝言挙げることになったって。」

「…誰がですか?」

「景時が良いとこの姫君と。あとは…将臣と神子姫様がね。」

次々と上がる名前に、九郎は少なからずは唖然とした。俄かに柔らかい微笑を浮かべて。

「なんでも、あんたたちに触発されたみたいでね。望美に至っては、もう子供いるし。」

「そうですか、景時や望美さんには何か贈りましょうか。ねえ、九郎?」

「そうだな。俺たちは行けないが、贈り物くらいはしないとな。…ヒノエ、いい加減茅を返せ。」

首肯しあうも娘が気になり、ヒノエの腕から抱き上げた。

「仕方ないね。あんたも、随分と嫉妬深い奴と婚姻したよ。」

「…そういう所も愛してますから。」

「言ってくれる。んじゃ、オレは帰るよ。愛しい姫君が待ってるだろうし。九郎も程ほどにしないと、子供が離れてくぜ?」

「っう、うるさい!」

九郎をじっと見つめる愛らしい瞳が、ぱちりと閉じるたびにまだ毛の生え揃っていない頭を撫で。

俄かにグサッと言葉を刺され、かぁっと頬に熱が集中した。

「九郎もいい加減、僕に茅を抱かせて下さい。」

「あ、あぁ。ほら…」

父親の腕から、母親の腕へ。

娘はじっと二人を見つめていた。



また二年後に、仲睦まじい家庭に、新しい家族が増える。


























家族が増え、4人となった。

姉弟二人に、意地っ張りだけど優しい夫に囲まれて、とても幸せで。

九郎とお茶を飲みながらのんびりしていた中、茅が弟を連れて来た。

「父様、母様。慶汰が怪我をしました。」

「はは、うぇ…ひっく…」

「慶汰…こちらへ来なさい。あぁ、擦り傷ですね、今薬を持ってきますから、大人しくしていてくださいね。」

母様は現役で薬師をしている。

弟の怪我具合を見れば、にっこりと微笑んで立ち上がるときっと秘密の場所へ向かったんだと思う。

「慶汰、いつまでも泣いてたらみっともないぞ。」

九郎の言葉は、まだ未熟な慶汰にとっては重く儚い心を砕くには力があり。

負けないという意思表示で、腕でグィッと涙を拭う。

「男の子がいつまでも泣いていたら、女の子に笑われますよ?」

「う、うるさいっ!姉上に何が分かるんだよ!」

「父様の前で泣かないって決めたの、貴方でしょう?」

「っ…ふんだっ…」

九郎の瞳が、優しく細められた。

その間にも両手に籠を持って、弁慶が戻ってきて。

話し声が聞こえていたため、自然にクスッと笑みが零れ出す。

「九郎、まるで昔の僕たちを見ているようではありませんか?」

「母様?それは一体…」

「お前たちの年頃に、そうやってよく言い合ってたんだ。だから懐かしくてな。」

「えぇ。さぁ慶汰、こちらへ。傷は浅いですから、これならすぐに治りますよ。」

九郎の隣に座り、息子の膝を出して慣れた手つきで消毒を進め。

清潔な布に薬草を塗り込んで、患部から膝裏に巻きつける。

「ありがとう、母上!行こう姉上!」

手当てが終われば、満面な笑みが刻まれ怪我をしたことも忘れたような風情で、また駆け出した。

「…父様、母様。夕刻には戻ります。それまでゆっくりして下さいね?」

そんな弟の様子に茅は溜め息を零す。

くるりと振り返れば、聡い娘は口元を僅かに上げて意味深に告げて弟の後を追う。

「茅…あいつは、弁慶似だな。」

父と母が顔を見合わせ、互いに苦い微笑みを刻んで姉弟の背中を見送った。

「そうみたいですね。困ったな…僕、そんなに君を欲しているような目をしてたかな。」

「…俺も不安だな。」

夫の指が金色に近い髪を一房掬い、口元に寄せて口付けてくる。

まるで、毛先まで神経が通っているような熱い何かが駆け巡る。

「っ…ここでは、嫌です。」

「ダメだ。お前が…弁慶が今すぐ欲しい。」

欲情した九郎の声に言葉に、腰から甘い疼きに苛まれていく。

熱っぽい声に、悩ましい眼差しに酔わされてしまった。

捕らわれた僕は動けない。



「母上と父上、今頃どうしてるんだ?」


「今は…そっとしておきましょう。たまには、二人にしてあげないとね。」

「そっか、そうだよな。」




外は快晴。

今なお、天に召された龍神は広い京を見守っていることだろう。



明日も、多き幸を願って。

























有名な御曹司、源家の庭は、今日も賑やかである。



「やぁっ!!はっ、…っ…」

木刀の先が、薙刀の刀身を捉える。

一度間合いを取れば、上がる息や態勢を整え肩から力を抜く。

「父様も母様も凄いですね。」

茅のリンとした声が、稽古の終わりを告げた。

「現役のときは、まだまだ動けていたんですよ?」

「若さだな。」

「九郎うるさいですよ。」

悪意のなさそうな、にっこりとした笑みを刻み。

薙刀の柄の部分が、ポンと九郎の背中を軽く叩く。

「っ…弁慶!」

「母上…なぁなぁ、俺も薙刀やりたい!」

「慶汰にはまだ早いかな。もう少し、大きくなったら教えてあげますよ。」

「教えるころには歳だろ?」

「…九郎、慶汰…二人でそこになおりなさい。」

「余計なことを言わなければいいのに…」

弁慶の薙刀が、空中から振り落とされた。

ヒュンッと軽快に風を切る音が、恐怖に引きつった父子を襲い。

数瞬遅れ、グサッと何かが地面に刺さった。

弁慶からは、素人目には見えないが黒い何かが漂っている。

『すみませんでした。』

「馬鹿…?」

「馬鹿ですよ、父子揃って。」

「でも好きなんでしょう?母様は。」

「えぇ、憎めないほどに愛してますよ。旦那様も、それに似た子供も。そして、茅も。」

母と娘の会話に薄ら寒い物を感じ、九郎の口角が僅かに引きつる。

異様な雰囲気を漂わせていた中、場を和ませるような明るい声が間に入り。

「あ、茅ちゃんだ!慶汰くんもいたんだね。」

「おや望美さん、いらしてたんですか?」

「勝手にあがってごめんなさい。」

「いや、全然構わん。」

「茅、元気にしてたか?」

「えぇ…貴方も元気そうでなによりだわ。」

龍神の神子だった望美と、その息子の竜。

茅より三つ上である。

現代っぽい名前なのは、望美たちの世界の馴染みだろう。

全体的に夫の将臣似だが、お淑やかさがあるのは望美似だと仲間たちが口を揃えて言っていた。

「竜、茅ちゃんと少し遠出して話してきたら?」

「母上…ったく、勝手な事を…」

「母さんにも、語らいたい時があるのよ。弁慶さんも九郎さんも、いいですよね?」

現役時代を彷彿とさせるような潔さに、その場にいた元八葉は苦笑いを零すのみ。

「僕は是とも否とも言いませんよ。茅の意志を尊重したいですから。」

「母様…」

娘を見る親の目は、微かに笑みを刻んでいた。

柔らかい微笑みに、茅はにこっとはにかんだ。

「いいよ、行きましょうか。」

「んじゃ、行ってくる。弁慶さんと九郎さん、茅を借りてくからな。」

「えぇ、ごゆっくり。」

にこやかに会話が進んでいく間、密かに九郎の心は寂しさに泣いていたとか。

「茅ぁー…」

「九郎、お願いですから情けない声を出さないで下さい。」

「父上…」

己の父である九郎に、慶汰はげっそりとする。

そんな会話が繰り広げられる中、元神子様の表情は楽しげに歪んでいた。




源家の今日も、大層賑やかである。



topへ

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ