Vol.4

□サムシングメモリー1
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きっかけは片思いしていた女性から、
「いい加減ウゼーんだよドM野郎!!」
とワンパンチ後に罵倒されたからだ。


彼女の勤めるキャバクラに連日連夜通い詰め、考えつく限りのアプローチをかけていたが、確かな脈と手応えはオレの思い込みだったらしい。

数々の酷い言葉を投げかけられ、露骨に避けられていた時点で気付くべきだった。
常軌を逸していたオレは、さながらキューピッドの弓矢に射られたアポロンの如く。嫌がる乙女の言動をツンデレと勘違いし、余計に燃え上がって夢中で追いかけた。
彼女にしてみればオレは、さぞかし気持ちの悪いドM野郎でしかなかったろう。


とはいえ。彼女と会う度に発生する料金や、数多のプレゼントでかなり投資したのは事実だ。
それなのに見返りは侮蔑の暴言と鉄拳制裁。唯一の繋がりだった店にも出入り禁止を喰らい、彼女その人も失った。

自業自得の仕打ちだが、それでも打ちのめされたオレは自宅で独り酒して男泣き。
そして次の日。会社を無断欠勤し、昼過ぎに二日酔いによる脳内ドラムロールで二度寝から覚めると、水を求めるより先に埃の積もったノートパソコンを起動させた。


辛くて惨めなのに、彼女を嫌いになれなかった。
だから、「オレマジでMなのかも…」と思い込んだのと、「だったらマジのMになってまた会いに行ってやるぅぅぅ!!」と思い詰めたのとで。


永久に感じた一夜が明けても、オレはまだ正気の沙汰ではなかった。
大好きだった彼女…妙さんへの猛アタック時以上に大胆不敵なスピリットで、検索して最初に目についたSMクラブのホームページへアクセス。
内容もロクに読まないまま、プレイの予約ボタンを力強くクリックしたのだった。

それがヤツとの、出会いと別れの発端だった。




後日。オレは起こした自棄への後悔と、元々持っていた男としての性的好奇心から、足をガクガク胸をワクワクさせ、件のクラブ前に立っていた。

アブノーマルな世界の場所だ、てっきり地下深く秘密裏に存在するイメージがあったのだが、そのクラブはとある雑居ビルのワンフロアに位置していた。この方が逆に良いカモフラージュなのか。

姿が映るほど磨き込まれたガラスのドアの向こうには、青白い照明に仄暗く照らされたカウンターが見えた。
水族館の中みたいだな…と的外れな連想で緊張を紛らわし、装飾の凝った金色のドアノブを一思いに掴んだ。




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