夢現…
□胡蝶の夢
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「お前が好きだ…!」
突然の告白だった。
暫し茫然と立ち尽くす俺の体をきつく抱き締めてきた。
口の中がからからに渇いた様にかすれた声の主は自分の対の有川将臣。
自分より少しだけ大きな体が震えていた…。
同じ男からの告白を受け、抱き締められている割に冷静な頭。
俺の頭は何処かおかしいのだろうか…?
ちっとも嫌じゃない。
信頼を寄せている相手だからなのだろうか?
「……将臣。」
どう考えてもこの体勢はおかしいだろうと思い九郎は自分を抱き締めたまま動かない将臣の名前を呼んだ。
「…悪い…突然こんな事を言って……だけどな、オレは……。」
切に訴える将臣の声はまだかすれており九郎の体を抱き締めたままの腕には力が篭る。
「将臣!」
強く呼ぶ声に将臣の体がビクリと跳ねる。
「……痛いから離してくれ…。」
「あ……すまない…。」
九郎の訴えに将臣は素直に従う。
目を伏せ泣きそうな顔の将臣を真っ直ぐに見つめ九郎が口を動かす。
「将臣、俺はお前の事を仲間として信頼している。」
「……だろうな…。」
予想通りの答えだと将臣は目を閉じた。
長い沈黙が続いた後、漸く将臣が重い口を開いた。
「…悪い……忘れてくれ…。」
切なそうな声に九郎は罪悪感を覚える。
「…将…お…」
名前を呼び終える前に将臣は九郎の前から姿を消した。
チクリチクリと胸を刺す痛みに顔を歪め九郎は他の仲間の元にへと足を向けた。