静かな夜に赤子の鳴き声が響く。一度火が付くとどうにも止められない。
「あたしが泣きたいわよ」
赤子は泣くのも仕事だと言って。一緒にあやしてくれる腕はない。
「冬獅郎さん〜早く帰って来て」

父親の日番谷は現世へ出向いている。帰りはいつになるか未踏しが立たないらしい。

泣き叫ぶ我が娘の何とこ憎たらしい事か。
育児ノイローゼ。
虐待頷ける。
数日夜泣きが続くとさすがの乱菊も体力的にツラい。目の下のには化粧で誤魔化せない隈が出来ている。

思い出すのは日番谷の落ち着いた低い声と、広い胸にガッシリとした腕。柔らかい銀髪に翠の瞳。
腕の中に収まる赤子の髪も瞳も日番谷に生き写しだ。
こ憎くたらしくても愛しい彼の血を分けた子なのだ。

泣き言を言いつつも頑張るしかない。

彼はいつ戻るかしら?今日?
明日?
明後日?
それとも――――――――――――……


「おいおい。あやし疲れて寝ちまったのかよ」
死んだように眠る妻と、大きな瞳を見開いて一心に父親を見上げる娘。
「お前ぇが、乱菊あやしてたのか?」
帰った安堵と、待つ人の存在する幸福をそっと噛み締める。
「…こいつ寝かせて来るから良い子にしてろよ」
愛娘は理解したかの様に笑った。
乱菊を抱き上げる。
目の下の隈が、連日の苦労を物語る。痛々しくて、愛しくて。日番谷は妻の瞼に小さなキスを落とす。


「ただいま…乱菊」

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