「……大変です。会長が女性死神協会のお金を使い込みました」
「……毎度じゃない」
七緒の前にカップを置く。丁度ワッフルも焼き上がったから一緒に出す。
引き立てのコーヒーの芳しい香りと、ワッフルの甘い香りが、日番谷邸を包む。
冬獅郎さんはどちらも苦手だから。
七緒が遊びに来て良かった。
「おっ上出来。七緒も食べなさいよ」
「乱菊さん!」
興奮した七緒はテーブルをガンと両手で叩き、立ち上がる。
「うぉ!びっ…びっくりするじゃない」
あたしの目立つお腹をハッと見て、わたわたと慌て座りなおす。
「すっすみません。興奮しました。」
「落ち着きなさいよ〜やちるはダミー通帳使ったんでしょ?」
「……いえ」
ダミー通帳とはやちる対策で作った見せ通帳である。使い込みが激しい会長の目を誤魔化すために七緒が考案した苦肉の作だ。
「……厳重に管理していたのですが……十一番隊の隊舎が金平糖で埋もれる事件がありまして…」
「……まさか」
「そのまさかです」
クイッと、トレードマークの眼鏡を片手で押し上げてる。
「慌てて隠し場所を覗いたらなくて……会長に聞いたら0の通帳を渡されました……落ちていたから使った…………と」
「あんたどこに置いたのよ?」
「……うちの隊長室の分厚い法律事典の中です」
乱菊は呆れた様に溜め息を漏らしコーヒーを飲み下す。
「そっ、そんな目で見ないで下さいよ!滅多に居ない隊長室に他の席官が近付くわけもないですし、京楽には無縁の本ですから」
失礼極まりない事を一気に七緒は捲し立てた。
「…じゃあ。何で」
「日番谷隊長です!」「はぁ?」
思わぬ所で出て来た、夫の名前に大きな瞳をパチリとしばたかせる。
「日番谷隊長が借りて持ち出した時に落としたらしくて。運悪く会長が拾ったみたいで……だから」
「…だから?」
七緒はズィと顔を近付けて、乱菊の華奢な手を取る。
「責任を取って下さい!」
「嫌!」
乱菊は即答すると、ワッフルにホーク刺した。
「…………」