「――…乱菊」
「なぁに?」
日番谷の筋肉質な裸の胸に気だるい吐息をかけて。乱菊は甘えるように頬を寄せる。

敵を威圧する翠の瞳もとろける様に優しく愛しい妻を見つめる。
甘い香りの金糸に指を絡め優しく撫でるとゎ長い睫毛が蒼の瞳を覆い隠しそうになる。
日番谷はあわてて彼女の細い腰を抱き上げ、目線を合わせる。
「寝るな。話しはまだ終わってねぇ」
「なぁに?」
「俺は明日から現世で仕事だ」
重くなる瞼と格闘する乱菊は、日番谷の言葉に一瞬ビクリと反応して、今夜は放れまいとしがみつく。
「本当に大丈夫か?なんならばーちゃんでも呼ぶか?」
「大丈夫よ」
現世出張が決まってから何度も繰り返された不毛な会話。
乱菊が妊娠中は、一人残して家を留守にする事はあった。が、子供が産まれてからは初だ。美貌の妻と幼子を残して現世に行くのはどうにも心配で。色々な提案を試みては全部スッパリ即答で却下され。納得できないものの乱菊が嫌がる事はしたくない。渋々引き下がったのだが、心配なものは心配なのだ。
「……乱菊?」
スヤスヤと穏やかな寝息が聞こえる。
本格的に寝入ってしまったらしい。

視線を横に移すと、乱菊によく似た面差しの赤子が、こちらもスヤスヤと眠っていた。

「まったく。これじゃ俺が過保護みつえじゃねぇか」

その通りなのだが、本人は幸か不幸かまったく無自覚だ。

日番谷は乱菊が寒くないように彼女の体を布団でくるみ明かりを落とした。
明日からはしばらく離れ離れだ。せめて今日だけは、愛しい女を抱き締める幸せに酔いながら、眠りに落ちた。


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