十番隊執務室。
麗らかな午後の日差しが、日番谷の柔らかな銀髪と綺麗に整った顔を照らす。
眉間にはいつも以上に深いシワを寄せて、手元の紙を一心に見ている。
出来る彼がそんなに悩む執務って?時々入室する席官達は、首を傾げつつすごすごと退出した。

「なーに見てるの〜」
「ひっ…雛森!どっからわいた!!」

ワタワタと紙を引き出しにしまう。珍しく同様する日番谷を雛森はニヤニヤと見下ろした。

「わいた!なんて失礼な言い種ね〜シロちゃん」
「…シロちゃんじゃねえ。日番谷隊長だ」
いつも通りの挨拶代わりのやり取りに、動揺も収まる。
麗しく成長を遂げた日番谷を幼き日の呼び名で一蹴できるのも、彼女だけだろう。

「席官達困ってたわよ。声かけれないって」
「あぁ?なんで」
雛森の顔が笑顔のまま凍り付く。

話し掛けたら氷漬にされそうな迫力だったんだけど。美形の無言は凶器になると言う事に、自分の容姿に無頓着な日番谷は気が付かない。

「……まあ。いいわ……日番谷副隊長は?」「紛らわしいから旧姓でいいぜ」
「分かった」
からかいがいのない幼なじみだ。
「伊勢に付き添ってもらって、定期検診だ。今日はそのまま帰るぞ」
「そっかぁ〜残念。順調そう?」
「ああ。…明日にも生まれそうな腹で飲みに行こうとするんだぜ。母親になる自覚ゼロ」
苦笑する幼なじみを眩しく思いながら。雛森は箱を手渡す。

「美味しいケーキが手に入ったから。乱菊さんに食べさせて」
妊娠してから益々、食い意地の張った乱菊だ。喜ぶだろう。
「……悪りぃな。もらっておくぜ」


「……そうだ。シロちゃん!雛菊なんでどうかしら?じゃ。戻るわね」

パタリと閉まるドアを背に、日番谷はガックリと項垂れた。
『しっかり見てんじゃねぇか。しかも雛菊ってなんだ!お前がオヤジかよ!』

引き出しから熱心に見ていた紙を取り出す。そこには

『子供の名前リスト』
と日番谷の字でデカデカと書いてあった。
親バカはすでに始まっていた。


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