「あっ」
「あぁっ!?」

突如、乱菊は目立ち始めた腹を押さえ、立ち上がった。

安定期に入り職務復帰は果たしたが、父親になる日番谷は最後まで復帰に渋ったのだ。
が、
暇を持て余した乱菊が、どんな行動をするかは想像が付いて恐ろしい。

『腹の子がアルコール漬け』

に、なったらかなわない。手元で監視するほうが容易い。

相変わらず山積みの執務と、同行を希望する乱菊を押さえての虚討伐。

過去最高に日番谷はピリピリしていた。

今度は何事だ!

ペンを放り出して乱菊の元に移動する。尖った顎を持ち上げて、顔をのぞき込む。

顔色は大丈夫だ。

「何だ?どこか痛てぇのか?」

フルリと顔を震る。肩から細い金糸がこぼれ落ちキラキラと輝く。
「冬獅郎さん!?」
ズィ
っと綺麗な顔が近づく。

職務中は隊長と呼べ!!
突っ込みも忘れて、乱菊の赤い唇が、言葉をつむぐのを待つ。

「やったね!娘よ〜」「……はぁ?」

付いて行けねぇ!!

乱菊は時々、突拍子もない事をするし言う。その度に付いて行けなくて、呆れるのだが。
「…医者に聞いたのか?」

男か女か。
知ってると準備が楽だと、出産経験のある隊士から聞いた事がある。


「そんな野暮するわけないじゃないですか!」
「じゃ、何で女なんだ?」
乱菊はよくぞ聞いてくれた!と、ばかりにニヤリと笑うと。高らかに

「母親の勘です!!」

と。
宣言した。

ガクリと脱力した日番谷だが、心配しすぎる己が馬鹿に見えて、無性に可笑しくなった。
「笑った」
「…んぁ?」
「心配だったんですよ」
コツリ
と日番谷の肩に額を当てて。乱菊は心細そうに囁いた。
「時々は笑顔を見せてくれたのに…最近は怖いくらいにピリピリしてて………あたしとこの子は負担をかけてるかもしれない…から」瞬間。
乱菊は大きな腕の中に包まれていた。
「悪ぃ…乱菊。違うんだ」

守ってるつもりが守られてた?

昔から進歩のない自分に呆れる。

「お前ぇと腹の子が大事すぎて…余裕なかっただけだ…」

金糸に指を絡ませて、
「娘のためにドッシリと構えなきゃイケねぇな」
「あたし達の娘よ〜無敵に可愛いいハズだわ」
乱菊のイタズラな言葉にピタリと動きを止める。

「檜佐木にも射場にも見せんじゃねぇぞ!」「はぁ?何で修兵と射場さんが出てくるの?」

日番谷の苦労は続く。

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