「っ…だめ。……ご飯冷めちゃう」
「飯なんてどうでもいい…」

壁と己の腕で乱菊を閉じ込めて。日番谷は甘い唇にチロリと舌を這わせた。
「…やっ…」
「や。じゃねぇ。乱菊が食いたい」
真っ赤に色付く頬を撫でながら、唇を会わせようとした瞬間


人影が足元を通りすぎる。
あのピンク頭のガキは
「草鹿」
「やちる!」

物凄いスピードで廊下の向こうに消えたやちるは、同じスピードで二人に突っ込んで来た。車輪付きのおかしな乗り物に片足を乗せ、片足を高速で動かし移動しているのだ。
「危ねぇ」
身重の乱菊を抱き上げ、ヒラリとかわす。
しかし、やちるは何事もなかったようにピタリと止まってみせた。
「乱ちゃんいいニオイ〜ご飯何?」
「何してるんだ?」
俺の家で。額に青筋を浮かべながら聞く。
「あっ〜ひっつんお帰り〜これはねぇ〜誕生日につるりんに作ってもらったの〜」
「だから、何してる」
「エンジン付きだよ〜ローラースルーゴーゴー2って言うの〜」
「だから!」
「ここを押すとね〜」クルリと回転させると、ハンドル付近に付いていたピンクのホダンを押す。

ドルルルル

エンジン音が響き、機械が走り出す。
「だから!何をやってると聞いているんだ!」
「すんごぃ滑るんだよぉ〜すんごぃすんごぃ〜〜あれ?」

『ドンカラガッシャーン』

屋敷が揺れる。
「……もういい」
「大丈夫かしらやちる」
「あいつより壁が心配だ。それより、どこから…」

「伊勢……」
見回した先の壁が上にスライドして、メガネの気難しそうな女が現れる。
「会長!壊さないで下さいよ〜ご飯食べちゃって下さい〜」
呆然の七緒を見下ろす日番谷を片手で制する。
「あっ。続けて下さい」
「わぁーい〜ご飯」
七緒は壊れた機械を引き摺りながら足元をを駆けるやちると共に壁の中に消えた。

日番谷は乱菊をそっと下ろすと、慌てて追いかける。

「なっ!なんだお前らぁ」

日番谷が驚くのも無理はない。こんな部屋は知らねぇ!という知らない部屋の中で、女の死神達が思い思いに寛いでいたのだから。

「あら。ノックくらいして下さいな」

卯ノ花のたおやかな声と笑顔に日番谷はガックリと肩を落とす。

『女性死神協会の幹部はシロアリだ』

そう揶揄したのは朽木だったか。日番谷はその意味を今、痛感している。

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