十番隊、執務室。
カリカリとペンを動かす二人は、同時に動きを止めた。
「乱ちゃーーーん!」
ピンクの嵐か接近して来たのである。
廊下を走るな!
その常識が、やちるに通じるハズがない。
日番谷は諦めて、乱菊が入れた渋めの茶をすする。
「どうやって赤ちゃんつくるのーーー」
『ブッ』
日番谷は正気とは思えない内容に茶を吹き出し激しく噎せた。
「たっ、隊長!大丈夫ですか?」
「ゴホッ…あぁ」
「あーお菓子美味しそう」
やちるは、そんな事はお構いなしにソファーにピョンと座り来客用の菓子をパクつき始めた。
「あらあら。お菓子付けて」
乱菊は笑ながらやちるの隣に座り菓子屑を手拭いで拭う。
「ありがとう乱ちゃん。赤ちゃんどうやってつくるの!教えて」
菓子に気を取られても忘れた訳ではなかったらしい。
日番谷はとりあえず静観を決めて茶をすする。
「んー」
乱菊は困った様に思案する。
「鸛(こうのとり)が運んでくるの」
月並みだが、言ってみた。
「え〜ケンちゃんと違う〜作り方はいっぱいあるの?」
背中から冷や汗がダラダラ流れる。やちるとて子供ではない。しかし姿形が子供なのだ。どこまで言って良いものなのか……
「更木隊長は何て?」
「合体すればできるって〜」
『ブハッ』
日番谷がまた激しく噎せている。
「……それで?」
乱木は引きつりながら促した。
「乱ちゃんとひっつんに見せてもらえって」
『無理だから!そんなキラキラな目で見ないで!』
『あんにゃろう!逃げやがったな!!』
日番谷はどうすんだよ?と瞳で訴えて来る。
「やっ、やちる…きっと、更木隊長はね。きっ…気持ちが合体。つまりは通じ合えたらっできるって、言いたかったんじゃないかしら」
我ながら苦しい言い訳に冷や汗が止まらない。
「そっか〜!」
が。
やちるは理解したように頷く。
なぜ誤魔化されたのかは謎だが、満足したようにケラケラと笑った。
「乱ちゃん!お菓子貰うね〜」
菓子を菓子入れごと掴んで、目立ち始めた乱菊の腹をひとなでして、来た時同様に嵐の様に走り去った。
二人で呆然と見送り、見詰め合う。
「お前ぇ。なんて顔してんだ!」
「隊長こそ!」
互いの腑抜けた顔が無性に可笑しくて。
笑いあう。
執務室に暖かい時が流れる。