take1.【てっちゃん】
「あの」
「んー?…あれ?」
「あの、ここにいます」
「ぎゃーーーっ!!?」
「5分ほど前からここにいました」
「いつから?!…って、え?」
「よく聞かれるので先に答えておきました」
突如、じゃないらしいけど、現れた髪の色素も影も薄い小柄な男の子は、あまり表情を変えないで言った。
集中はしてたけど、こんなに気付かないものなのかな??
「僕は4月から二年になる、男子バスケ部の黒子といいます」
「あたしも新二年!みょうじなまえ」
「女子部の方ですか?」
「そうだよ!4月からここに通うんだけど、練習には今日から来てるの」
「転入生でしたか。女子部の方がこんな時間にいることは滅多にないので驚きました」
黒子くんの言葉には思い当たるところがある。
男子はかなりの強豪校だと聞いた。
なんと全中連覇をしているらしい。しかもあたしたちの代は、さらにスゴいとか。10年だか20年だかにひとりの才能を持つ人がわらわら入ったとかなんとか。それでここ最近負けなしだとか。
でも、でもね、この黒子くんはそのスゴい人たちじゃないと思う。オーラもなければ影もうすい。初対面の人に失礼だけど。
「僕はここで自主練をしたいのですが、一緒にコートを使っても構いませんか?」
「もちろんだよ!」
「ありがとうございます。よろしくお願いします、みょうじさん」
「こちらこそだよ!ところで黒子くんファーストネームは?」
「? テツヤ、ですが」
「テツヤ…てつ?いや、てっちゃん!」
「?」
「てっちゃんって呼びたい!あたしは名前で呼んでくれたら嬉しいな」
てっちゃんはこっちをじっと見てくる。透き通った独特な形の大きな目。そんなに見つめられると照れちゃう。なんてムズムズしてると「わかりました、なまえさん」とてっちゃん。
無表情なんだけどなんだか笑ってくれた気がする。てっちゃんって、なんか、かわいい。
(予想どおり、バスケはへたっぴだ)