「お前、誰だよ」
「…君こそ」
take2.【失礼なやつ】
てっちゃんと知り合って一週間。あの後すぐ合宿が始まったから、この体育館での自主練も一週間ぶりだった。
てっちゃんは毎日来てるって言ってたから、今日もいるかなって来てみたら、あらゆる意味で彼とは正反対の男子がいた。
色黒、キレ目、長身、それでもってバスケはかなり出来るとみた。なまえちゃんのオーラ診断結果ね。
「彼女がみょうじなまえさんです。青峰くん」
「っっってってっ?!てて、て!てっちゃん!!」
「最初からです」
「ぶふぉっ!!」
「…青峰くん、唾が飛んでます」
「だーっはっはっは!ひっ、ぐ、へんな、か、ぶはっ!」
「「………。」」
この青峰とかいう人、笑いすぎじゃないかな。お腹抱えちゃってるんだけど。
てかなんで笑ってんの。あたしもてっちゃんもそんな爆笑されるようなこと、してないんだけど。
「ぶはは!こ、こいつ、顔、ぶふ!面白すぎだろ!今の!」
「ねえ、てっちゃん?この人ムカつくよ?」
「青峰くん、笑いすぎです。なまえさんに失礼ですよ」
「あー、いや、悪ィ。はは。落ち着いた」
「それだけ笑えばね」
「むくれんなって!えーと、」
「みょうじなまえさんです」
「それ!みょうじ!」
青峰くんは爽やかスポーツ少年みたいに笑いながら、あたしの髪の毛をぐっしゃぐしゃにしやがった。
ぐっしゃぐしゃだホントにっ!!あんたと違ってこちとら毎日手入れしてんだぞ?!
「なにしてくれてんのさ!!泣くぞ!?」
「泣くぞって!泣くぞってなんだよ、ぶはははは!!」
「てっちゃん!あたしこいつ嫌い!!なんで連れてきたのっ」
「僕が連れてきたわけではありませんよ」
てっちゃんが言うには、あたしたちが出会った日はたまたま居なかっただけで、青峰(こんなやつ呼び捨てだ!)はずっとここで自主練してるとのこと。
なんとなくレギュラーなのか聞いてみたところ、やっぱりそうだった。前に聞いた、何十年にひとりの逸材を持つ中のひとりなんだろう。ま、あたしには関係ないけどね!!
「みょうじ!1on1やろーぜ!てつじゃ相手になんねーんだよ。ま、てつはそういうんじゃねーんたけどさ」
「どういう意味?」
「そういう意味だよ」
てっちゃんは微笑むだけで、なぜか青峰はあたしの髪の毛をまたぐっしゃぐしゃにして頭をさわってくる。
その手を振り払って、青峰からボールを奪い取って、3ポイントラインの外で構えた。
(絶っ対負けない!けちょんけちょんにしてやる!)
***
「青峰くん、なまえさん。そろそろ帰らないと」
「はっ!もうこんな時間!」
「てめ!もうひと勝負しろや!!」
圧勝する予定で始めた青峰との1on1は、てっちゃんに声をかけられるまで閉館時間に気付かないくらいに白熱していた。マジでてっちゃんの存在忘れてた。ごめんね。
青峰は予想よりはるかに上手かったけど、それは青峰も同じだったみたい。完全にあたしをなめてかかってきたから本気になる前に稼いだ分、今日はあたしの勝ち。
だからアイスは青峰のおごり。
「おー、どれにすんだよ」
「レモンのやつ!」
お会計を済まして三人それぞれアイスの封を切る。春のぼんやり暖かい空気に包まれて食べるアイスは、なんでこんなにおいしいのかな。
「おまえっていつからバスケやってんの?」
「んー、いつかな。物心ついた頃にはボール触ってたし」
「じゃあ、ご両親からバスケを?」
「うん!そう!」
赤ちゃんの頃、オモチャの代わりに色んな競技のボールや雑誌なんかを広げといたらしい。うちの両親は。今思うと変な人たちだよなぁ。
そのおかげでバスケバカになっちゃって、てっちゃんや青峰みたいなバスケバカと友達になれちゃったわけだけどさ。新しい学校行くって決まった時も、バスケやってたおかげでちっとも不安じゃなかったし。
「僕はここで失礼します。また明日」
「おう、またな テツ」
「バイバイ!また明日!‥青峰ん家もこっちなんだ?」
「ああ、こっから真っ直ぐ」
「あたしは途中で左曲がる」
そっから5分くらいは青峰と一緒だった。
今日の1on1を振り返りながらあーだこーだ言い合ってたらあっという間だった。
(明日はもう4月かぁ)