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□きみをよぶ
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●木虎藍
聞いた話によると、彼女はわたしの入隊と同時期に近界へ遠征に出たらしい。
単独遠征は異例中の異例。
噂は耳にしていたけど、まさか大して年の変わらない女性のこととは思わなかった。
そんな人が先月の忍田本部長勅命の特殊任務で、敵側の陣営にいた。
嵐山先輩に彼女のことを尋ねると、先輩の師匠だという。
任務中にヘラヘラしてふざけた様子の人が先輩の?そう思ったのが顔に出ていたのか、なぜか彼女は異様な腰の低さで謝ってきた。
…プライドとか、ないのかしら。
これ以降、彼女に遭遇することはなかった。
エンジニアとかいうだけあって、ほぼ毎日技術開発室で過ごしているらしく、当然といえば当然かもしれない。
だけど、頭の片隅に残る程度になった頃、妙な噂を聞かされることになった。
年末、隊の作戦室での綾辻先輩と時枝先輩の会話だった。
「そういえばさっき、烏丸くんに会ったなぁ」
「京介が?珍しいですね」
「うん。どうしたのーって聞いたら背中をみせてくれたの」
「背中を?」
「それがねー、なまえをおんぶしてたの!あのこ また開発室に籠ってたみたいで」
「ああ。懐かしいですね。京介となまえ先輩のソレ」
「ほんとにね。栄養補給させにいくって。ふふ」
烏丸先輩に、おんぶ、される…!?
な…!な、なんて!なんてうらやましい…!!
何だっていうのあの女は…!他の人とどんなに親しかろうと(どうでも)いいけど、烏丸先輩は許せないわ…!
ま、まさか…つき合って、いるの…?
はっ!何を考えているのよ!それだけは絶対に、ダメよ!!
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